若い読者のための短編小説案内 (文春文庫)
本書は著者のアメリカの大学での講義内容をもとにして、日本で行った模擬講義を成文したものである。
吉行淳之介、安岡章太郎ら戦後に活躍したいわゆる「第三の新人」6人の短篇をテキストにして、小説の読み解き方を読者とともに考えてゆく構成である。文中に大まかなあらすじが記載されているので、テキストを読まずとも本書の趣旨を汲むことは出来るように配慮されている。
作家としての視点と深い考察は、読了後にテキストを読んでみたくなるほどの説得力を持っている。
冒頭には、文庫のための序文として、著者の短篇小説への関わり方を率直に語った文章が掲載されており、そちらも大いに興味深い内容である。
また巻末には、本文で紹介された作家の経歴だけでなく、手に入りづらくなったテキストを探すための案内もまとめられており、大変親切である。
海辺の光景 (新潮文庫)
「海辺(かいへん)の光景」「宿題」「蛾」「雨」「秘密」「ジングルベル」「愛玩」を収録。「海辺の光景」以外の短編は夢の中の出来事のような印象でぼやーっとしてあまり好きじゃないです。
精神病院に入院中の母親の最期を看取る「海辺の光景」はものすごくよくできた小説だと思いました。ただ、ものすごくよくできている、という印象がそのまま、ものすごく感動したということにはならないわけですが。
意識のない母親に、声をかけてあげなさいと病院の人に言われて上手く話し掛けることができなかった主人公が、何かを言ってあげたい気持ちになったときにはもう手遅れになってしまっているという場面はリアリティがあると思いました。