柳生武芸帳〈上〉 (文春文庫)
セリフは文語調、複雑な人物相関図、ストーリーもいいところで暗転しまくる上巻。
上巻は相関図をメモしたり居合の用語を調べながら、最後まで読むべきか、
現代小説に慣れ親しんでいるナンパなわたしは悩みました。
* * *
下巻の前半でやっと慣れ、面白くなってきました。
軟弱現代人にはイタいところですが、かつての日本のよき精神としての、武士道、信・偽。。
全ての人の行動・人生において精神のありかたを問われているような
Take it easyに侵される前のストイックな美学に貫かれています。
武芸帳を発端に禁中・殿中の関係のなか天下平定のために暗躍する柳生の真意とは。
攻略のために研究行動する日本、一方、危機を迎えてからこそ緻密に敵を探る中国。
朝鮮・中国とのスパイものへ急発展か?いったい柳生はどう関わっているのか?
じゃあ謎多きあの人はいったい?あの人たちは何でしつこくあちこち登場したの?
といった雰囲気で未完に終わってしまいます。
そこがドラマ・映画で多様に展開できるしかけになりました。
武芸帳の謎で、多少の無理もあれ、
これだけ広範囲に深く広く展開しているものはないでしょう。
柳生もののみならず、時代小説の発展に多く寄与した作品というのもうなずけます。
最初の三つ星を撤回し、構成難解・未完の分僭越ながら恐る恐る−1とさせていただきます。
残った★は読者の想像力で楽しみましょう。
NHK DVD 薄桜記 DVD-BOX
山本耕史主演のNHK時代劇ということで大いに期待して毎週オンエアーで見ました。
配役、脚本、演出どれも申し分なく毎週唸りながら時には涙しながら11週間あっという間に過ぎました。
これはストーリーなど細かな事は書かないほうがよさそうです、とにかく主人公は架空の武士、ある事情で旗本から浪人に成り下がりしかも片腕を失います。そして最後にはあの悪名高き吉良上野介(長塚京三)の用心棒となり、討ち入りを阻む役を命ぜられます。片腕ながらも無敵の剣豪と敵対する赤穂浪士側の堀部安兵衛との友情、ダブルヒロイン、柴本幸とともさかりえ等全てが見ものです。吉良側から見た「討ち入り」も新鮮な解釈で歴史的にも楽しめますので大河ドラマ好きの方でも満足できる切ない系時代劇。 最終回は体が震えます、悶えます・・・「陽炎の辻」ファンも絶対見逃さないで。
薄桜記 [DVD]
薄桜記
(1959年 / 日本 )
監督: 森一生
原作: 五味康祐
出演: 市川雷蔵 勝新太郎
赤穂浪士の仇討を背景とした時代劇
中山安兵衛が高田の馬場へ伯父の決闘の助勢に駆けつける途中、すれちがった旗本丹下典膳は安兵衛の襷の結び目が解けかけているのに気づいたことから始まる時代劇。
小宮山隆央
人生を変えた時代小説傑作選 (文春文庫)
今まで時代小説を一度も読んだことの無い方は、是非一度この本を手にとって読んでみてほしいです。
これを読んで時代小説に引き寄せられる人がいると思います。
私も時代小説はほとんど読んだことが無かった頃、この本を知人に勧められ読みました。
菊池寛「入れ札」、松本清張「佐渡流人行」、五味康祐「桜を斬る」、
藤沢周平「麦屋町昼下がり」、山田風太郎「笊の目万兵衛門外へ」、池宮彰一郎「仕舞始」
の6編収録です。
6人の作者名を見ただけで読んでみたくなりませんか。
薄桜記 (新潮文庫)
『柳生武芸帳』の作者の小説で、隻腕の剣士丹下典膳と
高田の馬場の敵討ちで名を馳せた堀部安兵衛との数奇な運命を題材にしている。
主人公の典膳をはじめ、安兵衛ほか回りを固める主要人物が実に格好いい。
特に、言葉少なで、しかし筋のしっかりと通った典膳は惚れ惚れする男振りだ。
数は少ないが、緊迫した『チャンバラ』もあり、ストーリーも非常に充実している。
二人の主人公といえる典膳と安兵衛それぞれを交互に視点に用いて、器用にしかしスムーズに物語が進む。
物語では、典膳と安兵衛の人生はねじれの関係にある。
旗本であった典膳は左腕を失い、浪人になってしまう。
一方、浪人中山安兵衛は堀部家に養子となり赤穂藩に仕える。
その間二人の関係は惹かれあいながらも相容れない。
二人の数奇な運命を決定付けるのは、あの赤穂藩主浅野長矩が江戸城松の廊下で起こした事件なのだが・・・。
一つ残念なのは、元禄赤穂事件に差し掛かった頃から約100ページに渡り著者個人の歴史観を述べる随筆と化してしまうことだ。
物語に著者の歴史観や史実の解釈が反映されるのは問題ないが、小説という形が崩れてしまっては興ざめしてしまう。