スノーフレイク・ミッドナイト
いままでMERCURY REVの作品をほぼ全て聴いてました。
ファンの方には不愉快かもしれませんが、そのどれもが個人的にピンとくるものがなく、どれも中古店ゆきの運命をたどってゆきました。
名盤と誉れ高い「Deserter's Songs」ではヴォーカルの声が控え目でパッとしない、その他のアルバムでは逆に艶やかすぎるという具合で、声と他の演奏との調和・バランスがどうもなじめなかったのが最大の理由です。
ただ、なぜそれでも買い続けたのかというと、メロディーセンスはどの作品も秀逸で惹きつけられるものがあったからです。あとは、ヴォーカルとメロディーの調和という点のみでした。
今回の作品はその調和という点でものすごく素晴らしい仕上がりになった、彼らの最高傑作であり、2000年代の5本の指に入るまぎれもない歴史的名盤であると自信を持ってオススメします。
インストゥルメンタルで魅せるところ、ヴォーカルで魅せるところのバランス、ヴォーカル自身の声の強弱、無理をして声を張り上げることも抑えて低く囁くこともない自然体のヴォーカリゼーションが今までとは明らかに違います。
また、その秀逸なメロディーセンスがさらに飛躍していることも特筆すべき点です。
もともと幻想的な世界観で定評のある彼らですが、このアルバムは陶酔してしまうほどの中毒性と幻覚作用があります。
ポップミュージックにおいて、神秘的といえばCOCTEAU TWINSですが、幻想的といえば数あるアーティストの中で間違いなくMERCURY REVだと決定づける一枚です。
ダニエル・ジョンストンの歌
D.ジョンストンはアメリカのイラストレーター兼シンガーソングライタービートルズ、コステロ、ニルソンのファンらしいですが、そんな感じはあまりないですね。ローファイ系音楽の先駆けです。
このCDはそんなD.ジョンストンの作品集。「Late Great・・・」なんて追悼盤みたいに言ってますが、シャレです。まだ生きてます。
1枚はカヴァー、1枚は本人のものと、聴き比べできて面白いですよ。
Hello Blackbird
第18回東京国際映画祭にも出展されていた、ロヴァンソン・サヴァリ監督による長編映画『Bye Bye Blackbird』のサウンドトラック。19世紀のロンドン、巡業サーカス団を舞台に繰り広げられる物語の情景を、まさしくその音のみによって描き出していく、幻想的でシネマティックな素晴らしい作品。
眼前をうっすらとした霧で覆い隠すように、美しく煙ったストリングスが空間を満たしていく。聴こえる限りにおいて、ギターやベースといった基本的な器楽は用いられていない。アナログな質感のシンセサイザーが背後を夢中のヴェールで包み込み、オーボエやピアノ、テルミン、シンギング・ソーが交互に主旋律を担っていく。微小なサンプリングやエレクトロニカがチャイミーに舞い散るその幻想のサウンド・コラージュは、時として余りにも悲愴に、あるいは冷たく暗い昂揚を孕んで鳴り響き、そして多くにおいて白昼夢のようなノスタルジックな昂揚感で聴き手を包みこむ。
夢と現(うつつ)の境界(あわい)で揺れ動く、仄かな光を孕んだ美しい混濁のインストゥルメンタル・ミュージック。フレデリック・ショパンのピアノソナタ第2番を編曲したTr.10"the Last Of the Blackbird"、夢からの覚醒の中途のような、あるいは二度と戻れぬ世界へと踏み込んでいくような、幻想的な歪みに侵されたステージで謳われる女性ヴォーカルが素晴らしい終曲"Simply Because"など、Deserter's期の空気をさらに濃縮したような、素晴らしい非現実世界が繰り広げられています。
ベスト(1991-2006)
91年のデビューアルバム"Yerself Is Steam"以来、実に15年を超えるキャリアを誇り、計6枚のフルアルバムをリリースしてきたN.Y州バッファローのバンド/マーキュリー・レヴの初となるベストアルバム。
本作は2枚組の構成となっており、Disc 1は1st(3曲)/2nd(1曲)/3rd(2曲)/4th(3曲)/5th(2曲)/6th(3曲)の計14曲が収録された純粋なベスト盤で、対するDisc 2にはシングルB面や未発表曲などが18曲収録された内容となっている。ここではそのDisc 2について簡単に。
レノンやジェームス・ブラウンの楽曲など、そのカヴァー曲はどれも各アーティストの音の本質を見極め、濃縮して描き出していくように響き、とても高いクオリティをもったものとなっている。一方で、最初期の未発表音源であるTr.10"Clamor"は、モロにS3を彷彿とさせるノイジーギターの殺傷性と、カオティックにリフレインするボーカルが暴力的な昂揚を放つ強烈な楽曲で、一方でこれまた未発表音源であるTr.11"Seagull"は、拡散する光を模したシンセの煌めきと歌うベースライン、メロウなジョナサンのボーカルが睦み合う、近作を思わせる陽性のナンバー。続くビートルズのカヴァー曲"Lucy In the Sky With Diamonds"と共に軽やかに、眩い光を振りまきながら天空へと飛翔していく。
改めてその音の変遷ぶりに驚かされるこのベストアルバム。作品全体で一つの世界を提示するバンドなだけに、初めて彼らの音に触れる人へこれをオススメできるかは疑問だけれど、これまでの歴史を総括する上で、内容的にもタイミング的にもかなり良い感じでリリースされた作品だと思う。
ディザーターズ・ソング
98年リリースの4th。NMEの年間アルバムチャートで1位にランクインされるなど、ヨーロッパを始めとする各国で大きな反響を見た屈指の名盤。
テナー&アルトサックス/トロンボーン/ピアノ/バイオリン/シンギング・ソー/テルミンまで、数多のインストゥルメンタル群が超自然的に絡み合い、一切の余剰を廃した純度100%の美しいサイケデリアを、独特のヴェールに覆われた夢幻の世界を創出していく。ジャズやブルースのクラシカルな匂いをも織り込みながら、途轍もなく美しい純白のメロディが繊細かつ壮麗なオーケストレーションと絡められていくその様は、本当に筆舌に尽くし難いまでに美しく、純粋で、この上ない昂揚感でもって全編を包み込んでいく。
ここで鳴らされるは まさに 恍惚の 音。
未だ誰も見出し得ぬ 至福の 音の 桃源郷。
耳障りのよいメランコリックなメロディと、完璧に構築された音のアンサンブル。しかしてフトその底を覗き込めば、どこまでも広がっていそうな果て無き深部が垣間見える。全ての音の果実が、鳴るべくしてそこに成っている。そんな無欠といっていいほどにパーフェクトな、本当に素晴らしい作品。