半島有事〈3〉ソウル・レジスタンス (C・NOVELS)
いよいよ釜山からの北上逆襲開始、一方では、ソウルでレジスタンスの攻防、という緊迫した展開の1冊です。
所謂、ドンパチの場面場面のみを見れば、この作者らしくスリリングで面白い。娯楽として読むなら単純に楽しめます。
ただ、1冊読み終えてから、あれ?というところが多々ありすぎることに気づくのも確か。記述が確実に粗雑になっている。
例をあげれば、「釜山に向かって北上」、とか、「(人民軍が)ソウルに向かった途中で密陽で足止め」、とか。
そして、攻防のひとつの要になっている密陽そのものが、半島地図にも戦況説明図にもない。このところ、必ず、主要戦場
の詳細配置は後付けで続巻に記載される傾向になっています(今回は、ソウル郊外の地図があるだけマシでしたが)。
筆者は、実生活でも防衛大綱のアドバイザー的な役割を果たしている、と個人ブログやメルマガで豪語していますが、
100両からのT-62戦車のアンブッシュについて、詳細配置は事前に察知できていない設定になっている。この数の戦車部隊
なら、支援部隊を含めれば相当の数の兵員や車両が動くハズで、筆者のお気に入りの秘密無人偵察機「天山」など使わずとも
衛星レベルの赤外線カメラや合成開口レーダーで容易に展開察知できる。情報センターとして「コンドル」の設定をしながら
大局の状況把握については、「第二次湾岸戦争」時の衛星写真より後退しつつ、現場のオモチャ然としたラジコン機を嬉々と
して描いているあたり、違和感が拭えません。ソウルの蜂起にしても、戦闘状況で、川の上流下流、左右・東西等に矛盾が
多く、逆に戦況図が後付けになるのが納得できてしまう。
また、作品中で一貫して自衛隊部隊が「チョッパリ」と嫌々受け入れられる光景が延々と続くのも、逆に作者の半島に対する
感情の裏返しのようで、些か辟易します。ヒューマンドラマにしても、安直にカップリングしたり、唐突に少年と在日出身
の「ケナリ」の邂逅が出てきたり。腰の座った描きこみが薄れてきています。
『ミューズ』のような精密精緻なファンタジーの描ける作者なので、半島情勢が作品より先行してしまった(本巻内にも、
唐突に延坪島事件が出てくる)からといって、他に現代戦を描く作家が非常に少なくなっている昨今、粗雑に描き急がず、
娯楽に留まらない作品を願いたい、というのは最早贅沢なのでしょうか。
女神(ミューズ)のための円舞曲(ワルツ)
半島有事〈4〉漢江(ハンガン)の攻防 (C・NOVELS)
敵・味方それぞれの人間性の描写があり、それぞれの人間が戦いを演じていて、単純に一方的に味方が
勝利するということで、胸がすくということありません。そのかわり、物語に深く入り込んでしまいました。
物語の展開として1〜3話の続きでいよいよ挽回する場面の中で、それぞれの個人の戦闘がスピード感を
持って進んでいきますので、一気読みをしてしまいました。次巻が楽しみです。
半島有事5 (C・NOVELS)
大石先生の本は出る毎に買ってたのですが、今回は立ち読みで済ませてしまいました。
この巻は、半島有事シリーズの中では出来が良い方だと思います。
1〜4巻で多々見られた軍事的・政治的に変な記述がそれほど目立たず、手慣れた戦闘描写が綴られています。
それなのに何故レジに持っていかずに棚に戻してしまったのか、自分でも判りません。
なんとなく、この本をお金を出してまで手元に置いておきたいという気持ちが起きませんでした。
個人が超人的な活躍をするサイレント・コア・シリーズの作風が、大規模な現代戦に向いてないのかなあなどと
思ったりもします。
次は、買う気の起こる面白い本を書いてくれる事を期待してますので、頑張ってください。
半島有事〈1〉潜入コマンド蜂起 (C・NOVELS)
前シリーズ「対馬」が、かなり唐突に終わったのに対する、実質的な続巻です。
所謂ドンパチ部分については、この筆者らしく素直に面白いです。また、ある意味非常に興味深いのは、対韓国協力
(というか、この巻では実質は日本による半島侵攻)が、決して対韓的に好意的な視点から書かれていないこと。
筆者のブログやメルマガの読者からは、筆者の『気分』が滲んでいるのが感じとれます。
人間模様についても、この筆者ならではの書き込みが深くて、人物像がクッキリしています(やや「為にする」部分
もありますが、スターシステムで平行世界も描いている筆者なので、逆に解かりやすい面はありますが)
かなり陰惨な描写も出てくるし、巻末のシーンは衝撃的ですが、やはり一番の欠点は主戦場になっている釜山付近の
地図がないこと。実質的にもう不要になった対馬の詳細図がそのままになっているあたり、少し急いだのか、それ
とも、釜山への逆上陸のネタバレにならないようにしたのか、それは不明ですが… グーグルで地図・高精度写真を
見れば、殆ど解かるので良しとします。(あまりに符合し易いので、現地取材は?… と思えるほど)
来月刊行予定の次巻の冒頭が、どんな場面で始まるか、それが一番興味をひく。上手い終わらせ(=続かせ)方だな、
と思いつつ、素直に面白さを優先して星4つにします。
アメリカ分断〈上〉 (C・NOVELS)
ハイブリッド天然痘で国家が崩壊したアメリカは、
西部を日本から、東部を欧州からの援助で何とか
命をつないできたが、多くの国民は援助の手厚い
西部を目指して旅立っていた。
本書はその中の一家族にスポットを当て、必死に
生き延びようと苦闘する姿を描いています。
著者が他の軍事スリラー作家と一線を画すのは、
このような設定でも読者をグイグイ引っ張る筆力が
あるということ。
また、その家族を救うためにイギリスの退役軍人が
立ち上がる姿も感動的。
果たしてこの一家は無事に西部に到着できるのか?
下巻が楽しみ!