漢の武帝―大帝国を築き上げた中国屈指の皇帝 (PHP文庫)
前漢の全盛期を作り上げた劉徹・武帝の生涯を描いた小説。有名な楚漢戦争と三国時代を扱った小説は数多存在するが、本作はその間の漢の時代を取り扱ったものであり、それだけでも貴重である。先代・先々代の質素倹約な治世、いわゆる「文景の治」の跡を受けて、武帝は逆に国庫を空にしてまで難敵・匈奴に立ち向かい、結果として漢の領土を広大なものとする。果てのない未開の西域を旅する張騫、高名な漢の将軍である李広・衛青・霍去病らの活躍、武帝を取り巻く後宮女性の骨肉の争いなど、見所は多い。古代の中国に興味のある方なら、間違いなく楽しめる内容となっている。
則天武后と玄宗皇帝 (PHP文庫)
本書は中国史上唯一の女帝・武則天(則天武后)から、彼女の孫に当たる李隆基(玄宗)までの四代に渡る歴史の推移が描かれた作品です。
漢の呂后、清の西太后と共に「中国三大悪女」の一人に挙げられる武則天ですが、二代の皇帝(太宗・高宗)の寵愛を撥条に垂簾政治を敢行し、自ら専制君主として周朝を創設していく様が小気味良く描かれています。
本書では彼女の残虐非道な性情にも触れられてはいるものの、主に統治者としての外交・政治・人材登用能力や中宗・睿宗兄弟を厳しく躾る母親としての側面等が多岐に渡って言及されています。女帝として辣腕を振るう彼女の姿は、我欲に突き動かされていると云うよりは、天下静謐を掲げ自己を顧みずに身を投じていると云った印象の方が強く残りました。
この様に苛烈な烈婦と称される武后から並々ならぬ愛情と薫陶を一身に受けたのが、本書のもう一人の主人公・李隆基です。彼は武后・韋后を跨る「女渦」の弊害を取り除き、後に「開元の治」で唐朝最大の隆盛を齎すことになりますが、この善政を可能にした素地に武后の変革が大いに貢献していたと云うのは歴史の皮肉を物語るのに足る内容でした。
一見好対照の性質に映る両人ですが、武后は張易之・張昌宗兄弟を、李隆基は息子の妃・楊玉環を偏愛することで次第に国政を傾けていくと云う同様の晩年を迎えていきます。
国益の成果とは裏腹に、権力者として長年君臨することの懊悩が心身を蝕んでいき、寵臣・寵姫に没入することで自己の空虚を満たそうと足掻く様が生々しく描かれているのも本書の特徴です。
此までも岡本氏の中国歴史作品には何点か触れる機会がありましたが、その中でも本書程楽しめる作品には出会いませんでした。岡本氏の作品は元来読み易い文体で構成されているので、幅広い読者層に受け入れられる作品だと思います。
妖剣・蒼龍伝―中国怪奇譚
装丁が素敵でぱらぱらとめくってみたのだが、面白い。話はシンプルだがまとまっていて、語り口が自然で引き込まれる。平易な文体だが読ませる。聞いた事のない作家だぞ!(失礼!)調べたところ、以前にかなり活躍していた方の復刻版です。何十年もたって復刻版が出るくらいだからやはりすごい。今読んでもぜんぜん不自然じゃない。中国ものというのも色あせない理由の一つではあるのでしょうが。