予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
行動経済学の入門書です。人間の記憶や欲望が経済的な行動にどう影響をおよぼすのか、それは常識と同じか、違うか、どう違うか、なぜ違うか。などの人間行動が著者の工夫された実験によって抽出されていき、実際のビジネスの場面で使えるような形へまとめられていきます。
内容は、おもしろく書かれていますが、おそらくその他の自己啓発的な書物やマネジメント入門書と同じようなものでしょう。
注目すべきは著者の研究スタイルです。著者は思いつきをすべて、仮説化(単純化)→実験→比較検討→仮説の修正→さらなる実験→・・・というサイクルに乗せていきます。
たとえばホワイトカラーに軽微な不正が多いのはなぜか、犯罪の抽出を学生を使った実験によって行いますが、その実験の工夫の仕方には創造力を使っているのだと思わされ、上手だな〜と、本当に驚かされるところがあります。単なる仮説が「実感」、「現実」に少しずつ近づいていくのは、楽しいですよ。たぶん、仮説化(単純化、抽出)にコツ、というか目の付けどころがあるのだろう、とおもいますが・・・。
同じ視点から、もう少し仮説を深めてほしい、もっと深く考えて欲しい!、それで終わり?と思った論点もあり、その点で不満も少し残ったのですが、学ぶところも多かったです。
学者にとっての仮説は企業にとっての製品と同じで、トライアンドエラーを繰り返して成長させていくものだと思いました。その成長のさまは気持ちいいです。
Map of What Is Effortless
前作があまりに優れているため、賛否両論のある今作ですが、これ単体で聴くと、このアルバムも大変素晴らしいモノだと思います。暗く落ち着いたメロディアスなトラックと、その上を流れる美麗な声。エレクトロニカと人間の生声がこれ以上無いほどシンクロし、とても美しい音楽が生まれています。トラックも単に全てが落ち着いたままではなく、破壊的で希望を失ったかのような悲壮感溢れる電子音の嵐(それすら美しい)が急に襲い掛かってきたり、サウンド的にも起承転結あるので飽きがきません。しかしそれらが素晴らしい程に統一され、アルバムの構成を散漫にさせることなくまとまっている…。単に音楽的な才能だけでは無し得ない“芸術”ともとれるエレクトロニカ・ソウル。素晴らしい作品だと思います。
g2 ( ジーツー ) 創刊号 vol.1 (講談社MOOK)
「月刊現代」の後継誌として創刊された「g2」に掲載されている石井光太氏の「感染宣告 日本人エイズ患者と性愛の連鎖」は、HIV感染を宣告された人が、「宣告後の人生をどう生きているか?」に焦点を当てたルポである。
HIV感染は、他の病とは異なる特長を持っていると思う。
1つは、性行為(セックス)により感染するものであり、また、感染者は、「他人に感染させてしまうかもしれない」というリスクを念頭に生活しなければならないこと。
そして、もう1つは、治療を継続すれば「すぐ死ぬ病」ではないにも関わらず、感染が死につながるイメージが強く残っていることだ。「汚れた血で死ぬ」と誤解される病だろう。
HIV感染を知った後、家族、配偶者、恋人などとの関係をどう築いていくことができるのか?。
石井氏は、感染を宣告された人や、その周囲にいる人々に、感染の経緯や感染が判明したときのこと、そして、その後の生活について尋ねている。
人と人が触れ合うこと、抱きしめあうこと、愛し合うこと。
これらは、人と人が関係をつくり、それを維持していくうえで重要な要素になる。HIV感染は、これらの行為を妨げる。だからこそ、感染は、それぞれの人生に重くのしかかる。
感染者の孤独は深い。
それは並大抵のことでは拭い去れず、一生抱えていくものかもしれない。
一方で、HIV感染者は、「誰かを愛する」「生きる」ということについて、他の人よりも
真剣に悩み、考えなければならない人々でもある。
感染を宣告された後の、感染者の人生の一端を示すことは、HIV感染に対する無知や、そこから生まれる偏見を解消する取り組みといえるだろう。
Fahrenheit Fair Enough
エレクトロニカ・デュオ、
チャーリー・クーパーと
ジョシュア・ユースティスによるユニット。
テクノ畑出身ではない彼らが
エレクトロニカ・シーンに一石を投じた
圧倒的に美しい1stアルバム。
グリッチ・ノイズ、
ビートを操る感覚が抜群なので、
エレクトロニクス・サウンドに
絶妙の間が生まれる。
その音と音の狭間を出入りする
流れるようなメロディ。
想像力を刺激される音の抜き差し、
そのさじ加減。
ジャケットのアート・ワークも
素晴らしい。
2ndが気に入ったなら、
ぜひ手に入れたい作品。