なでしこお京捕物帖 大逆転 (ベスト時代文庫)
この時代は幕末で、嘉永六年、黒船がやってきたあとです。
危機感が社会にみなぎり、武家でなくても、いや、むしろ町人たちがわんさか町道場に詰めかけ、自衛のための武術を磨いたとか。
その中には、当然、旗本の子女、大店のお嬢様もおり、女性となるとメインはなぎなたです。
もと武家の妻であった尼さんになぎなたを習う「なでしこ組」を率いるのは、定町廻り同心の妹、お京十八歳。冒頭から、「さくら組」との試合模様が華やかですが、チームのひとり、大店のひとり娘のお芳がそのあとでかどわかされて行方不明になった事件を、兄とは別にこの「女子会」の力で追ってゆきます。
お話のトーン自体は、重苦しいリアルな感じとはほどとおく、お京、およう、ぽっちゃりした八重、少し霊感のあるお春など娘たちが結束して、お芳を探してゆくとちゅう、偽手紙におびきだされて、「さくら組」のリベンジ攻撃に遭ったり、お京が、お芳を好きらしい兄靖一郎をからかったり、また少し気になる兄の友達竹之進と憎まれ口をたたきあったり、とほんとうに現代の女子高生のようなにぎやかさ。会話も現代的ですが、クラシックなツボは外していません。
文明開化のお菓子やバナーナそのほか異国の食べ物も出てくるほか、読みどころはやはりお京の圧倒的な腕の冴えでしょうか。なぎなたでの立ち回り描写はあまり読んだことがなかったので、試合の場面に目が吸い付けられました。
それと、この作者は懇切丁寧に、なぎなたの構えが五種類あること、同心に三種類あること、当時、品川の宿はどうなっていたか、日本橋からどのくらいかかったか、など諸処で、ティーンにもわかりやすくこの時代の事情を説明してくれていますので、「書道ガールズ」ならぬ「なぎなたガールズ」のおっとりした幕末版YA小説として楽しめます。