女系家族 [DVD]
まずは冒頭、車内の後部座席位置のカメラが、前方にいる運転手&フロントガラス越しの町並みを捉えたショットがすばらしい。
そんな映像に被さる、荼毘に伏す父親の許へ急ぐ3姉妹の会話がすでに可笑しい。
三隅研次監督作品は今作が初めてでしたが、いやはや演出がモダン、ユーモラスで面白いです。
この話は、「白い巨塔」で知られる山崎豊子原作によるもので、安定した質と気品、そして鋭い洞察力に溢れています。
宮川一夫のキャメラ、依田義賢の脚本という協力なメンバーを得たことで、隙が無くより良質な室内・会話劇を生み出すことに成功していると思います。
京マチ子の憎たらしいまでの強い自己主張、浪花千恵子のしたたかさ、
中村雁二郎の腹黒さ、若尾文子の罪深い美しさ…と話題は取り上げたらきりが無いく、何度でも繰り返して手にとってしまうほどです。
特にハッとさせられたのは田宮二郎と京マチ子が愛し合った後のシーン。
コトが終わり、田宮が立ち上がって京にひと言物申すのですが、(半分無理やり襲われたとい
う設定のため、乱れた姿でいるであろう)京の姿をカメラは捉えることなく、
田宮のみを天井位置から捉えているこのシーンは実に映画的で、粋。
その演出のセンスの良さに惚れ惚れしちゃいました。
現在のドラマや映画監督ならこういうシーンをどう撮るか、それで力量やセンスが問われるところですね。
「わかっているスタッフ」が「わかっているキャスト」と作り上げた実にすばらしい映画であると思います。
運命の人(一) (文春文庫)
「白い巨塔」「沈まぬ太陽」「不毛地帯」など、
戦争や組織をテーマにした社会派小説で有名な山崎豊子さんの最新作です。
本巻の分量は278ページ、所要は2時間半程度です。
内容は、1970年代にあった「西山事件」という外務省の機密漏えい事件を題材に
主人公の新聞記者、弓成亮太(モデルは西山太吉)を中心にしたドラマを描いています。
完全なフィクションと言いつつ、実在の事件に人物が酷似しているため
読者はリアリティにはまります。一方、スキャンダラスな部分は大幅な脚色・創作が含まれています。
この手法は「沈まぬ太陽」と同様で、同作が好きな方にはおすすめです。
ノンフィクションを求める方や事件の関係者には不快な作品かもしれません。
大地の子 全集 [DVD]
このドラマには戦争という悲劇に翻弄された数奇な運命の人たちのドラマです。しかし、これほど人間愛にあふれたドラマもない。
私が、見たテレビドラマの中で最も感動したドラマです。
物語の主人公、陸一心、日本名:松本勝男(上川隆也)は日本人孤児でそれ故に差別を受けながらも、中国人養父陸徳志(朱旭)やその周りの人たちの愛の中で育てられる。しかしながら、やはり日本人孤児ということで、彼の運命は文化大革命などに大きく左右される。
物語は原作者山崎豊子の綿密な取材の元に作られており、中国の激動の時代を背景にリアリティあふれ、それでいて素晴らしい人間愛のドラマです。
出演している役者の演技はどれも素晴らしいが、特に中国人養父役の朱旭の演技は素晴らしい。
観てない人はビデオを借りてでも見てください。
不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))
資料無断引用疑惑の作家として山崎豊子さんの名前を知り、元伊藤忠副社長、瀬島龍三氏がモデルであるとして「不毛地帯」という作品を知り、結局、スキャンダルがらみであることで敬遠の一冊であった。
しかし今、個人的にもっと早い時期に読むべきだったと後悔している。これを読んでいれば、
ロシアの捕虜となりシベリア抑留を経験しても男は愚痴、泣き言を言わず・・の伝で、体験を決して語らず鬼籍に入ってしまった父をもう少し理解できたのにと残念でならない。
また、資料引用疑惑があろうとも、社会背景の緻密な描写力、骨太の構成の巧みさ、読者をひきつける話の展開などの作家技量は十二分に評価できると思った。際物と片付けられない作家の力に圧倒された。
ただし、登場人物の描写が善人、悪人と若干、平面的なのが気になったが、読後、私は彼女の他の作品への興味が湧いた。