図説 永井荷風 (ふくろうの本/日本の文化)
河出書房新社の図説シリーズ最新刊、
カラーページで構成されたいわゆるムック本、
永井荷風の生涯と作品紹介がコンパクトにまとめらたファンには便利な内容、おそらく川本三郎の荷風関連エッセイ本の読者を最大の購買層として編集されたものとおもわれる、
20年以上ロング・セラーを続けている新潮社の文学アルバム・シリーズの永井荷風編を21世紀版として若干グレードアップした印象の好書(もちろん重複する写真も多い)、
眺めることを目的とすれば本書のほうが楽しいが、2冊を比較すればそこにもまた時代のうつりかわりが感じられるところも荷風ファンには得がたい興趣かもしれない、
星四つなのはロング・セラー確実の本なのにじゃっかん高価格の印象を受けたからです、
ぼく東綺譚 (新潮文庫)
「断腸亭日乗」を読むと、この作品が出来上がっていく様子がわかる。昭和十一年の九月、荷風は玉の井である女と出会う。その女のことを「上州辺のなまりあれど丸顔にて眼大きく口元締りたる容貌、こんな処でかせがずともと思はるるほどなり。(中略)あまり執ねく祝儀をねだらず万事鷹揚たるところあれば・・」と記す。以来、荷風は三日にあげず女の家に通うが、その合間をぬうように「墨東綺譚」の執筆が同時にすすむ。まるでルポルタージュ。脱稿まで一ヶ月、荷風にしては珍しい速筆だが、それだけ、興と筆がのったのだろう。お茶漬けさらさらっといったかんじで読める。
女ぎらい――ニッポンのミソジニー
ミソジニーという概念そのものは、フェミニズムを少しかじった人間にとっては目新しくもなく、(レビュアーの一人が指摘しているように)ジェンダー論についての新しい視点を期待して読むとがっかりするかも。だいたい、ミソジニストとして最初に出てくるのが吉行淳之介だもんね。いまどき吉行淳之介なんて読む人いる?ただ、フェミニズムはその歴史的役割をほぼ終えたのではと思ってた私にとっては、いまだに女性蔑視が再生産され続けていることを認識させてくれたという意味で、価値がある一冊だった。例えば、最近のいわゆる「性的弱者」や「非モテ」援護論に潜むミソジニーとか。(この場合の「弱者」は必ず男のことだよね。よーするに彼らは、「我々にも人並みにおんなをよこせ」と言ってる訳だ。)女性の社会進出の進展と少子化の影響で、母親が娘に「息子」としての期待と「娘」としての期待を過剰に押し付けるが故に、母娘の関係が病的に歪んでしまうことがあるとか。今までフェミ論に縁がなかった人にとっては、目からうろこがいくつか落ちること請け合い。
草の花―俳風三麗花
それぞれ境遇の異なる3人の若い女性たちが句会で出会い友情を育む。読後のあと味の良い小説です。句会の始まりから終わりまでの描写がとても楽しい。3人のヒロインは医師の卵壽子、若妻ちえ、芸者松太郎でそれぞれの場所で自分らしく生き抜こうとします。年代は昭和初期から終戦直後まで。舞台は東京市から満州へ。次々に登場する脇役は川島芳子、甘粕大尉、満州皇帝溥儀など一癖ある人物ばかり・・・・。壽子を支える東京女子医専同窓会ネットワークの手厚さに感動!それに、松太郎の機転で永井荷風が句会に飛び入りとは!著者の俳句に対する愛情の濃さをしっかりと受け止めました。ご近所の俳句の先生(70代女性)にお勧めしたら「面白いわあ、こんな小説があるなんて!」とお喜びでした。