ジェノサイド
久しぶりに、喜怒哀楽を刺激してくれる小説に出会った。
舞台は刻々と変化をする
・コンゴ共和国ジャングルでの生き残りをかけた傭兵部隊
・日本にて無実の罪で指名手配されつつも、創薬に励む大学院生
・アメリカ合衆国、国家最高機密の事象をそれぞれの思惑の下に処理していく大統領と各機関幹部
現実的には交わる事の無いはずの傭兵と大学院生、彼らはウィルスと戦う事により、一人は自身の息子の命を。そして一人は世界中で病に冒されている患者の命を守るはずだった。しかし、それはアメリカ合衆国の陰謀と衝突し、全く予期せぬ展開へと歩を進める事になる。
尊い命を守るために、人類を滅ぼす可能性を守るジレンマ、そこには、ヒトとチンパンジーが分かれた最初の進化の段階に酷似した事象“超人類”の誕生が関与していた。ジェノサイドとは一般的には大量虐殺を指す。がしかし、本書での意味は“一つの人種・民族・国家・宗教などの構成員に対する抹消行為”が適訳だろう。果たして、ジェノサイドの脅威にさらされるのは、キリスト教徒以外か、コンゴの先住民族か、我々人類か、未知なるウィルスかそれとも・・・
テンポ良く移り変わるシーンは、その親切な文章構成から読み手の想像をサポートしてくれ、さながらハリウッド映画を見ている様に脳裏に映像をもたらしてくれた。
『新種のウィルス発見による人類滅亡』という、お決まりのストーリーを楽しく読んでいたつもりが、気がつけば、“ヒト”とは何かを問われている展開の広がり具合とスピード観に、驚きながらも極めてエンターテイメント性の高い本書に共感を覚えた。
小説、特に本書の様な類いの書籍を評するにあたり気をつけなければならない事、それは“ネタばれ”の度合いだろう。その意味からすると、表紙に飾られている“帯”に書かれているコメントは、程よく読書欲を高めることに成功している。ここに記す書評についても、ネタばれは“超人類”の誕生に留めておき、登場人物の感情、ストーリーに言及するのではなく、それこそ良い塩梅に作品構成と著者の感情について考察してみたい。
著者の作品は本書が初めてだったため、本書を読むにあたり、著者の指向、価値観、好き嫌い等の前情報は一切無かった。そう言った中で、本書を読んだ率直な感想、それは、あまりにも日本人を侮辱・侮蔑しているのでは無いか、という気持ち悪さ。そして、偏り過ぎた戦争観だ。物語の随所に見られるそれは、ストーリーへの関係性を全く持たぬ独立した価値観として、ぶしつけに読者の目に晒される。
南京大虐殺を引き合いにだしたり、傭兵部隊の一員である日本人を精神異常者の様に振る回らせ大量殺人を行わせたり、関東大震災で日本人による在日大虐殺があったと断定したりと、決して右寄りではない僕ですら『何と言う反日思想・・・』と目を疑いたくなった。
そして、アメリカ合衆国に対しても、これでもかと言う程の嫌悪感をあらわにしている。それはひとえに“暴力”と表現され、さらにはキリスト教的思想についても“悪”のレッテルを貼っているのだ。それは、本書の最後に記載している『参考文献』を見れば明かだ。一部抜粋する。
『アメリカの秘密戦争』『戦争大統領』『ブッシュの戦争株式会社』『差別と日本人』『関東大震災』『南京事件』『南京戦 切りさかれた受難者の魂 被害者120人の証言』等、
本書は少なくともこれだけの“反日反米思想書籍”の主張を含んでいるのだ。著者の思想をモロに反映している書籍なのだとすれば、安易に同調しながら読み進める訳にはいかない。
確かに、読了後の感想は「おもしろい」。が、それはあくまで“エンターテイメント”としての感想に留まる。ハリウッド映画とすればこれほどの想像力、スピード感に満ちた作品には中々出会えないだろう。が、
ミステリー・ホラーとしての表現力、事前調査量は、貴志祐介『天使の囀り』に遠く及ばない。
SFとしての発想力、先見性は池上永一の『シャングリ・ラ』の方がよほど長けている。
確かに『おもしろい』のだが、著者のグロテスクなまでの反日反米思想はどこか宗教的な雰囲気まで漂い気味が悪く、他の著名な作家に比べると表現力、発想力にもまだまだ伸びしろがあると言う事で★2つ減となった。
満足したのに酷評したくなるのは、僕が天の邪鬼だからなのではなく、本書が伝える“人間性の狂気”を否定したいという本能的な拒否感から来ているのだとして、それすらが著者の意図する範疇の中だとするとこれほど完成された書籍はない。
6時間後に君は死ぬ [DVD]
WOWWOWの録画で観ました。見しらぬ人物に「6時間後に君は死ぬ」と言われたら、、、「はあっきっと単なるサイコスリラーだろうな」と思って観始めたのですが、いやいや思わぬ拾い物、拾い物。快作と言っていいでしょう。連作になっていますが、必ず続けてみて下さい。その方がこの作品の良さが良く分かります。ちょっと宮部みゆき氏の某作品に似ているような気もしますが、ラストはなかなか見せました。
ホームランとまでは申しませんが、クリーンヒット、一見の価値ありです。
幽霊人命救助隊 (文春文庫)
夕方からちょっと読み始めたらおもしろくてやめられなくなり、一気に読了。テーマは、「うつ状態に入り自殺しそうな人をいかに助けるか?」です。このテーマで正面から書いたら、大変暗い話になってしまいます。それをこの本は、見事にエンターテインメントに仕立て読ませてしまいます。
受験を苦に自殺してしまった高校生の幽霊に神様が言います。「49日以内に100人の自殺志願者の命を救うことができたら、天国に行かせてあげよう。」頼みの綱は、3人の仲間と神様からもらったいくつかの小道具。一人、また一人と苦労して助けていくうちに、孤独・貧困・いじめ・借金苦・失恋など人が死ぬ数々の理由や、人間の弱さや強さ、命の尊さに気付いていく・・・。
著者の、自殺志願者を救いたい、救う方法をみなに伝えたいという想いがあふれています。「何か伝えたいことがあるから、人を惹き付ける形にして、伝える。」と言う意味で、大変成功している本です。感動します。うつについて勉強になります。そして何より、おもしろいです。ぜひ読んでみてください。
13階段 (講談社文庫)
初めてミステリーを読んだのがこの作品。
死刑制度や冤罪など普通は避けてしまいそうな小難しい話をここまで初心者にもわかりやすく書かれていて最後まで苦にならずに読むことができました。
話の序盤の純一の行動がラストで一気にわかったとき、哀しさとも寂しさともなんともいえない感情がわきあがってきて、せつなくなってしまいました。ミステリーって面白っ!って思わせてくれるには十分な作品だと思いました。
グレイヴディッガー (講談社文庫)
名作「13階段」の著者のサスペンス小説。ただ単純に面白かったと思う。とにかく読み始めて早い段階から事件が起こり、最後まで息つく間もない。主人公の逃避行と警察の捜査が順番に挿入され、時には交わりながら劇的に展開する。最後まで一気読みしてしまった。必然性がない、という意見が多いようだが、そう言われればその通りなんだけど、僕にはそんなこと全く気にならないくらい純粋に「楽しい」小説であった。確かにサスペンス小説としては芯が細い、全体的に軽いという人もいるかも知れない。しかしこの本を購入した時に期待していたのはこのノリだったし、期待していた以上のものが返ってきた、と思っている。