映画を見るとき観客はまず主人公の立ち居振る舞い、その中でも特に表情を注目することによってその人がどんな人であるか知ることで、その主人公に感情移入して今から始まる物語に興味をもって見守るものです。
　「裁かるゝジャンヌ」の主人公は歴史上の人物であり、しかも特異な物語を担っているため誰もが知っている人です。カール・ドライエルはその主人公であるジャンヌを映画史上きわめて革新的な方法で描こうとします。それは主人公ジャンヌの表情を一瞬たりとも逃がさないように全編クローズアップで押し通したのです。もちろん場所の指定、登場する人物群、最期の火刑の様子などの描写はありますがそれらは物語に必要な最低限度にまとめられています。ファルコネッティ演ずるジャンヌ・ダルクの表情の徹底したクローズアップは、奇跡を起こしたはずの主人公の、情熱や猜疑心、不安や迷い、さらにはあきらめや決意などの微細な表現を可能にしており観客を圧倒します。
　私はこの新たに発見されたオリジナル版の映像のクリアーさもさることながら、ここに見られる、ちょうどリュミエールの「工場の出口」を見たときと同じく、映画という表現媒体がその重要な技法の一つ一つを新鮮な感動をもって見出していくその現場に立ち会っていることの幸せを思わずにはいられません。
　このような意味で「裁かるゝジャンヌ」は、映画を愛する人々への貴重な贈り物です。傑作といえます。