愛する [VHS]
つまらないなどと言うレビューがありましたが、素人の言うことは聞き流すとして。先ずキャスティングが良い。酒井君のその後の活躍を暗示しています。また、作品がタイムリー。ハンセン氏病訴訟を暗示するかのようです。原作を思わず読み返したくなったのは、私だけではないでしょう。以上のように、玄人向けの渋い一品です。この作品を理解できないようでは………。
沈黙 (新潮文庫)
日本人信徒への残忍な拷問、殉教に「神は何故沈黙するのか」と問う宣教師の悲痛な叫び・・・。
私は日ごろ神や仏を信仰しているわけではないですが、かと言って神がいないと思っているわけでもなく、もしも生きるか死ぬかという窮地に立たされたら、きっと神に命乞いをするに違いありません。それが一般的な日本人の姿だと思います。信仰心が厚ければ人は病気にならないか、事故に遭わないか、愛するものの命を不意に奪われないか、答えはノーです。では、何故人は信仰するのか。心の救いを求めるからです。信じる者の心にのみ神は存在するのです。
神の為に潔く殉死していく隠れ切支丹たち、その拷問を受ける姿に耐えられなくなったパードレの選択は・・・。クライマックスは壮絶です。神とは、信仰とは、人間とは、深い思考の渦に落とし込まれます。これこそ世代を超えてすべての人に読んでもらいたい名作です。
沈黙 SILENCE [DVD]
遠藤周作原作の映画化作品はジンクス的に傑作映画になる確率が高い。
1969年の浦山桐郎監督作『私が棄てた女』(同年キネマ旬報ベストテン第2位)、71年の篠田正浩監督作の本作(同2位)、86年の熊井啓監督作『海と毒薬』(同1位)――といったぐあいだ。
本作は英国でもずっと以前にDVD化されており、小子はそれを購入して所有している(リージョナルコード2。ほぼスタンダードに近いオリジナルのアスペクト・レシオ。画質はまあま)。
言わずと知れた17世紀の長崎を舞台にしたキリシタン弾圧を描いた作品。次々出とてくる拷問シーンが酷い。
数年前、カソリックであるイタリア系のマーチン・スコセッシ監督(『アリスの恋』『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』『最後の誘惑』『グッドフェローズ』『ヒューゴの不思議な発明』等の名匠)が本作を再映画化することに意欲を燃やしていたことがあったが、何だ?もう立ち消えか?(ロバート・ホワイティングの『東京アンダーグラウンド』の映画化、という話も立ち消えになっているし、案外、根性のないおっさんだね、スコセッシは。ディカプリオとウォール街映画作ってた方がそれは楽だもんね)。
ところで、17世紀の江戸幕府によるキリシタン弾圧には、実は、欧州での宗教改革が間接的に影響しているという研究が以前、されていたことがあり、興味を惹かれたことがあったが、その後の研究は進んでいるのだろうか?江戸幕府が交易を許したオランダは新教国。その間接的影響で、日本では旧教のカソリックが弾圧を受けた、という見方なのだが、あながち的外れではないという気がする。
1969年の浦山桐郎監督作『私が棄てた女』(同年キネマ旬報ベストテン第2位)、71年の篠田正浩監督作の本作(同2位)、86年の熊井啓監督作『海と毒薬』(同1位)――といったぐあいだ。
本作は英国でもずっと以前にDVD化されており、小子はそれを購入して所有している(リージョナルコード2。ほぼスタンダードに近いオリジナルのアスペクト・レシオ。画質はまあま)。
言わずと知れた17世紀の長崎を舞台にしたキリシタン弾圧を描いた作品。次々出とてくる拷問シーンが酷い。
数年前、カソリックであるイタリア系のマーチン・スコセッシ監督(『アリスの恋』『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』『最後の誘惑』『グッドフェローズ』『ヒューゴの不思議な発明』等の名匠)が本作を再映画化することに意欲を燃やしていたことがあったが、何だ?もう立ち消えか?(ロバート・ホワイティングの『東京アンダーグラウンド』の映画化、という話も立ち消えになっているし、案外、根性のないおっさんだね、スコセッシは。ディカプリオとウォール街映画作ってた方がそれは楽だもんね)。
ところで、17世紀の江戸幕府によるキリシタン弾圧には、実は、欧州での宗教改革が間接的に影響しているという研究が以前、されていたことがあり、興味を惹かれたことがあったが、その後の研究は進んでいるのだろうか?江戸幕府が交易を許したオランダは新教国。その間接的影響で、日本では旧教のカソリックが弾圧を受けた、という見方なのだが、あながち的外れではないという気がする。
深い河 (講談社文庫)
遠藤周作は「沈黙」を呼んで以来久しくご無沙汰していたが、分量もすくなく読みやすく、しかも泣けます。かなりのオススメ。
物語は突然の妻の死で幕をあける。男は妻の突然の死を受け入れる事が出来ない、典型的な日本人の夫らしく妻をいたわり、愛する事をしてこなかった彼が気づいたものは「空気のようだ」と思っていた妻が、本当の空気のようになくてはならないものであったという事実であった。おとなしく、感情をあらわにすることのなかった妻が、乱れるようにして吐いた最後の言葉を追って彼はガンジス川へ旅立つ「必ず生まれ変わるから、この世のどこかに・・・。」
この本では五人の日本人がそれぞれの理由を背負ってインドへ行く。あるものは妻の「転生」というおよそありえない可能性を追って。あるものは太平洋戦争中ビルマで戦って死んでいった親友を弔うため。またあるものは、自分には信じられない「何か」を信じ、そのために「破門」の烙印さえ押された神父の友人を探しに。
私を含め、多くの日本人は無神論者であり基督教の言う神なるものの存在を信じない。しかし、本当に絶望的な時や何かにすがりたい時、誰しも一度は人間ではない物に祈った事があるのではないだろうか。テストの結果発表を見るとき、家族の危篤を伝えられたとき、罪から逃げようとしている時。どんな世界の、どんな階層の人間でも心に苦しみを持ち、その苦しみから逃れるために何かにすがり、祈る。その何かがこの本の中では「玉ねぎ」であり「深い河」ガンジス川なのだろう。
この本の一つのテーマは「転生」だが、物語から伝わってくるのはそれだけではない。
人間の感情には多くのグレーゾーンが存在し、誰もがその葛藤に悩まされている。人間の心が描き出す愛憎は水と油のようなものではない。たまらなく愛しい思いの中にも、深い憎しみが隠されているはず。様々な気づかなかった事に気づかせてくれる名作である。
物語は突然の妻の死で幕をあける。男は妻の突然の死を受け入れる事が出来ない、典型的な日本人の夫らしく妻をいたわり、愛する事をしてこなかった彼が気づいたものは「空気のようだ」と思っていた妻が、本当の空気のようになくてはならないものであったという事実であった。おとなしく、感情をあらわにすることのなかった妻が、乱れるようにして吐いた最後の言葉を追って彼はガンジス川へ旅立つ「必ず生まれ変わるから、この世のどこかに・・・。」
この本では五人の日本人がそれぞれの理由を背負ってインドへ行く。あるものは妻の「転生」というおよそありえない可能性を追って。あるものは太平洋戦争中ビルマで戦って死んでいった親友を弔うため。またあるものは、自分には信じられない「何か」を信じ、そのために「破門」の烙印さえ押された神父の友人を探しに。
私を含め、多くの日本人は無神論者であり基督教の言う神なるものの存在を信じない。しかし、本当に絶望的な時や何かにすがりたい時、誰しも一度は人間ではない物に祈った事があるのではないだろうか。テストの結果発表を見るとき、家族の危篤を伝えられたとき、罪から逃げようとしている時。どんな世界の、どんな階層の人間でも心に苦しみを持ち、その苦しみから逃れるために何かにすがり、祈る。その何かがこの本の中では「玉ねぎ」であり「深い河」ガンジス川なのだろう。
この本の一つのテーマは「転生」だが、物語から伝わってくるのはそれだけではない。
人間の感情には多くのグレーゾーンが存在し、誰もがその葛藤に悩まされている。人間の心が描き出す愛憎は水と油のようなものではない。たまらなく愛しい思いの中にも、深い憎しみが隠されているはず。様々な気づかなかった事に気づかせてくれる名作である。
イエスの生涯 (新潮文庫)
「奇跡の物語」ではなく「慰めの物語」を…。裏切り者のユダに、事なかれ主義のカヤパ、弱虫の弟子たち。われわれの身近にいるような、おもわず親近感をもってしまうような人たちばかり出てきます。読む側の人生の季節によって、共感する人物がかわるであろう、それゆえいつまでも手元に置いておきたくなる本です。