モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ/シューベルト:幻想曲 他
クラシック音楽には様々な楽曲があり、多くの演奏家がいて、それで数多くの録音があり、フアンは様々にこれを楽しむ。その過程で、好みや解釈、あるいは思想などの違いが生じ、人によって、あるいは聴くときの気持ちによってさえ、支持する演奏、好きな演奏が異なる。まさにそれがクラシック音楽フアンの、汲めども尽きない「興味の泉」ともなる。
しかし、中には「この演奏は誰が聴いても、好きになっちゃうのでは?」と思うものもあり、さしずめこのペライアとルプーによる1984年と90年に録音された魅力的なディスクも、私にとって「そう思わせる一枚」なのだ。
ペライアとルプーという二人のピアニスト。この二人は、本当にこれらの曲に相応しい二人だ。彼らの演奏は、ヴィルトゥオジティ(演奏上の名人芸的技巧)を振りまくものではない。圧倒的な力を感じるものでもない。しかし、彼らの演奏に代え難い価値をもたらしているのは、深いところから綿々と紡がれる「音楽性」であると思う。つまりモーツァルトであればモーツァルトの、シューベルトであればシューベルトの歌を、まさに最上の形で自身のパフォーマンスの中に解き放つ能力に卓越しているのだ。だから、このディスクを聴いていると、本当に溢れるような音楽の魅力が横溢していて、音楽学とか、解釈論とかで文句をつけるようなことは到底頭に思い浮かばない。そういう天性の心地よさに満ちている。
モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」は輝かしいニ長調の音楽だが、二人の演奏はヴィヴィッドで快活そのもの。屈託のない音楽が明るい陽射しのようにパーッと広がる華やかさがある。「幻想曲ヘ短調」は曲自体がモーツァルトの短調の名曲として数え上げたいくらいの名品だし、ペライアとルプーに弾かれると、濁りのない淡く優しい哀しさが適度に舞い、健康的な美観につつまれる。
シューベルトの「4手のための幻想曲ヘ短調」も知られざる逸品で、ペライアとルプーの明朗な音楽性に裏打ちされることで、いよいよその魅力が現出した観を深める。
以上のように素晴らしいディスクなのだが、収録時間が42分程度と短いのが残念。できれば彼らに弾いて欲しい曲がほかにもたくさんあるのだが。今後に期待したい。
NHKクラシカル ハイティンク指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ペライア [Blu-ray]
NHKのBS放送記念ライブ番組をHD録画しBDにもバックアップしてこれまでに数回見ました(聴きました)が、早速BR化ということで、放送時からどこまで画質・音質がアップできるか期待大です。惜しくも放送を視聴・録画できなかった人向けに老婆心ながら付け足すと、当日のロイヤル・コンセルトヘボウも名匠ハイティンク、ペライアも文句ない名演・力演でしたよ。やはり名楽団には名匠が必要で、ハイティンクとヤンソンスとの組み合わせではベルリンフィルと言えども現時点では総合力で後塵を拝するのも仕方ないと納得されます。これで有名なコンセルトヘボウの「堂鳴り」が明確に聴きとれれば「一生モノ」の宝でしょう。NHKにはBD化への画質・音質の十分な吟味・仕上げを期待しましょう。
バッハ:ゴールドベルク変奏曲
ゴールドベルク変奏曲と言えば、どうしてもグールドの二つの演奏を最初に思い浮かべてしまう.
しかし、あの演奏は常に、スタンダードに対するアンチテーゼなのである.考え抜かれた構成、それを実現する技巧、限りなく施された彫琢、そして聴衆にどのように聴こえるかが、精密に計算されている.それ自身がスタンダードとなるべきものではない.
ペライアのこの演奏は、何よりも瑞々しさの点で際だっている.深い内省も見られるが、それよりも、明るい歓喜が感じられる.第30変奏のクオドリベットの眩いばかりの幸福感は、他を抜きん出る特色である.グールドの演奏に対峙しうる、新たなスタンダードの登場である.
そして訪れるアリアによって、深く静謐で、しかも満ち足りた眠りが訪れるのである.
シューマン:ピアノ・ソナタ第2番/シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番
素人シューマンファンの意見です・・・シューマンといえば幻想的でロマンティックなところが好きなのですが、このソナタは情熱的で、初めて聴いたときは「本当にシューマン?」と思ってしまいました。聴いていると、音使いなんかはシューマンぽさが出ていますが。こういうシューマンもいいですね。
ショパン:練習曲作品10&作品25
「ショパンの『練習曲』の模範的な弾き方はこうなんだよ。」と模範をたれているような,堂々とし,安定した演奏。どこにも破綻がない。ピアニストを目指す人にはこれ以上の教材はないような気がします。何のけれんも飾りもなく,ショパンの楽譜に忠実になると自然とこうなるみたいな,数学的な演奏ともいえます。
ただ,ぼくのように,聴く一辺倒の人には,ちょっとひねりが欲しかったかな。例えば,「革命」は,ホロヴィッツのほうが緊迫感や苛立ちをしっかり演出しています。それが「模範的」かどうかは,ぼくには分かりません。が,聴いているときのどきどき感は,ホロヴィッツのほうが上でした。
ただ,何もデモーニッシュに弾くだけが音楽じゃないよと,正当なテキストを提示してくれるこのCDは,とてもいいアルバムだと思います。