今夜、すベてのバーで (講談社文庫)
ロックンロール作家中島らもの出世作。アル中である自分の入院体験をネタに、
とにかく冷静に主人公である自分の入院生活を客観的に見つめている。
この人にしては、話のまとまりがとても綺麗で、登場人物もそれぞれ
いい意味で固定されたパーソナリティーを持っていてとっつきやすい。
ラストの締めくくり方はとても素直で、読後感をよりいっそう爽快にしていて好きです。
中島らもにはマジックマッシュルームなんかやらんで欲しかった。
復帰を願ってます。
宮本武蔵 DVD-BOX
本作では鶴田浩二演じるところの佐々木小次郎。
これが驚くほどいい。
言わずと知れた剣の達人で武蔵最大の敵役。この設定は当然だが、本作で白眉なのはそのキャラクターの造形である。
あまりに強すぎるがゆえに世間から受け入れられない孤独。
それでも自らの剣を極めることを宿命づけられた彼の天才としての生き方は、ニヒルであり、どこか破滅的だ。
そこまではよく描かれる小次郎像であるが、本作はそればかりではない。
そんな孤高の天才としての自らの宿命をうけいれつつも、武士としての礼節を重んじ、対戦相手や女、つまり自身より弱いものへのいたわりも忘れない。
そんな彼のストイックな姿は高潔で凄味を感じさせるものであると同時に、常にどこか一抹の寂しさも漂わせている。
小次郎が発する言葉のひとつひとつ、それを独特の説得力ある台詞まわしで語る鶴田浩二の演技も絶品だ。
まさに、男が惚れる男として描かれている本作の佐々木小次郎は、完全に“三船”武蔵を圧倒している。
巌流島の決闘の迫力や、そこからつながるラスト・シーンの情感も、まさにこの佐々木小次郎像あってこそ導かれるものであると思う。
…が、作品全体としての出来は、決してほめられたものではありません。
特に、武蔵とお通の離れてはくっつきを繰り返すメロドラマ的部分のしつこさや、第二部(「続・宮本武蔵 一乗寺の決闘」)のもたつき加減は観ていてなかなかキツイものがあります。
新・平家物語(二) (吉川英治歴史時代文庫)
この巻は、保元の乱の事後処理と平治の乱のとっかかりまで
のストーリーである。
天皇と上皇方の戦いの後、天皇方の清盛、義朝は双方、肉親を打ち取り、
その首を差し出す。
内容は厳しいかつ、異常なものだが、目が離せない場面である。
また、上記とは無関係だが、この巻では、源氏と平氏の嫡子(悪源太義平と
平重盛)が初めて相まみえる。その場面が実に初々しく、若さがあふれんばかり
で大変、気に入った。吉川英治氏の表現力に改めて感服である。
人形歴史スペクタクル 平家物語 完全版 DVD SPECIAL BOX
吉川英治氏の原作は、出生の問題に悩む若き平清盛の青春期(平安
時代末期)から、医師阿部麻鳥夫妻が吉野で桜を眺めながら息子へ
の思いを語る時期(鎌倉時代初期)までを描いた超大作です。この
人形劇は、吉川氏の壮大かつ繊細な物語の大部分を丹念に映像化し
た労作でもあります。
第二部で熱病に苦しむ清盛(声・風間杜夫)が妻徳子(声・紺野美
沙子)に、「お前は、わしの観音菩薩だ」と感謝をこめて語るシー
ンは涙なしに見られない名場面です。源氏に圧倒され、都落ちし
た平家一門の人々が、清盛入道を追悼する管絃講の場面は、切な
さがこみあげてきます。
川本喜八郎氏の人形美術の至芸と声優諸氏の名演が鮮やかに輝
く傑作人形劇です。