永遠と一日
瀬川幸子は50歳、ウィーン在住の貿易会社支社長夫人だ。
ウィーンの日本人社会の中でも一目置かれる地位にある。
義理の仲の息子たちにも細心の注意をはらって育てている。
皮肉な笑みがよく似合う極めて現実的な人間だ。
そんな彼女がウィーンの市場でジプシーの老婆から不思議な眼鏡を買う。
その眼鏡をかけると、眺めていた物語や写真の仲の世界へ入ってしまうのだ。
前半はお馴染みの物語の仲で小さな冒険を重ね、眼鏡の力を試し、確信していく。ありがちなファンタジーのようだが50年配の夫人がアン・シャーリーやロビンソン・クルーソーに出会うのだ。
しかし、この物語の醍醐味は後半の幸子の過去への回忌の部分だ。
自分の不誠実から死なせてしまった弟に幸子は会いに行く。幸子の願いが叶って、昭和30年代のある日に彼女は帰っていく。誰もがちょっと不幸で寂しかった昭和の子供、それでも精一杯受け止めて子供時代を謳歌していたあの頃。 幼くして逝った弟、不遜な親戚に殴り殺される愛犬、借金のかたに働かされるために北海道に連れて行かれる姉
背中の重荷は大人になるほどに耐えられなくて、少しずつ冷淡になっていく幸子。
「私の人生は間違っていた」
皮肉な気分のうちに半生を送ってしまった主人公が見えない大きな存在に気づき、人生の光を今一度取り戻そうとする。
現実離れした題材だが、幸子の女としての苦悩、業、恵まれなかった幼い頃の思い出がよどみない筆致で綴られていく。後半の子供時代の話の部分では何度も号泣し、呼吸困難になって困った。
期待せずに読み始めた本だったが忘れられない作品となった。
テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX IV (永遠と一日/再現/放送/テオ・オン・テオ)
全集ではこの第4巻を初めて手にしました。
長編処女作「再現」と近作「永遠と一日」のカップリング、
さらに「再現」以前の短篇「放送」というラインナップがこの第4巻の妙味でしょう。
3枚それぞれに入った解説書には各作品の監督のコメント、資料が満載。
これだけでも溜息が出ます。
「永遠と一日」はDVDでの鑑賞がオススメ。
以前、テレビ放送を録画していたので今回の購入をためらいましたが
テレビ放送とは比較にならないほどシャープ。
また解説書には作品完成時の監督インタビューに加えて
主演のブルーノ・ガンツへのインタビューを収録。
彼自身の人間性や、創作現場での監督像が垣間見られます。
死を見据えながら見終わった後の爽快感が不思議でしたが
インタビューでその謎が少し解けた気がしました。
「テオ・オン・テオ」
全作品に関するインタビュー。各作品からのセリフ選びも監督らしい。
監督自身が語る各作品の成り立ちもファンには溜飲のさがる思い。
亡くなった美術監督ミケス・カラピペリスの各作品美術原画も必見。
この巻の解説書は、映像に映っていない部分を補っており
これも映画祭での上映ではなくこのDVDならでは。
映像とは別に講演を活字で収録しているのも嬉しい。
「放送」「再現」
「再現」では長編第一作にしてすでにアンゲロプロスの美学が見て取れます。
白黒のコントラストに映る石畳、石積みの家並みの美しいこと。
事件に翻弄される人間の強く、美しいこと。
「旅芸人」以降のどの作品でファンになった方にもオススメです。
「放送」は当時のラジオというメディアの創る虚像を暴く作品、
しかし同時に当時のアテネの街頭が活き活きと活写されているのも面白い。
解説書の「再現」完成当時の監督インタビューは必読。
全集に手を出そうか迷っている方は、先ずこの巻を入手されて損はありません。
独特の長回し撮影になったのは必然だったのです。
各作品の謎もこれを見ることで、監督の姿勢を通して深く知ることが出来ます。
しかしこれを手にしてから、どうしても他の巻が気になって仕方がないのですが…。
永遠と一日
フェリーニ=ニーノ・ロータとはずいぶん趣が異なるが、テオ・アンゲロプロスの映画にはエレニ・カラインドルーの音楽が不可欠である。いまやそれは映画の重要な一部になっているといっても過言ではない。
アンゲロプロス映画の音楽をカラインドルーが担当したのは「蜂の旅人」からだと思う。1982年にある映画祭でカラインドルーの音楽に接した監督は、その場に出席していた作曲家に即座に仕事を依頼したという。その後「シテール島の船出」「霧の中の風景」を経て、「こうのとりたちずさんで」「ユリシーズの瞳」と次第に両者のコラボレーションの密度は深まり、「映像と音楽の稀有の一体化」を実現してきた。
そして、その頂点をなすのが、この「永遠と一日」である。映画を見た人なら、音楽がいかに主人公(ブルーノ・ガンツ)の心の微妙な襞々に寄り添っていたかが理解できるだろう。このCDを聴くたびに、私はアルマーニのコートに身をやつした、人生最後の一日を過ごす男の姿がまざまざと浮かんでくる。
その一方で、この音楽の完成度はどうだ。ギリシャの民族音楽の研究家でもあるカラインドルーは、郷愁あふれるローカリティのなかに地域や時代を超えた普遍性を獲得している。現代ギリシャの生んだ優れた現代音楽としても高い評価が可能であろう。実際、これは単なるサントラ盤ではなく(そしてカラインドルーの全作品が)、アルヴォ・ペルトやクルタグなどの作品で知られるECM New Seriesからリリースされている。
アンゲロプロスの最新作「Weeping Meadow」(Trilogy I)の音楽も、もちろんカラインドルー。すでにCDが発売されているが、これも素晴らしい出来映えである。ギリシャではポップチャートの上位にランクインしたとか。映画の公開を待ちわびるや切である。
永遠の一日 (海外文学セレクション)
入り込むまでに時間がかかってしまった。
この本の舞台はすべて1993年の11月1日である。その中で違った年齢のスペンサーとヘイゼル。
それを違う場所の別人なのかどう考えればよいのかわからなかった。
しかしおそらく変に考えず同一人物ととっていいようだ。
こんな構成も慣れていくと良いものだ。
うまい具合に二人のこれまでを少しずつあちこちちりばめられていて、最後には不可解だったこともわかるようになっている。
初めのほう理解できず何度か読み直した自分がばかだった。
あと、しょうがないことなのだが時々ある訳文っぽい文が少し気になった。
話の内容的にはなかなか好きだし考えさせられる部分もありよかったので星四つにした。