蝉声 (塔21世紀叢書)
「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」を初めて詠んだとき、眼が潤み、強い衝撃を受けました。愛する人に触れたいのに触れることできない悲しさ、つらさ、愛する人を残してあの世に逝ってしまう苦しさが身に染みました。どんなにか切なかったことか。
想像を絶するに余りあり‥という思いが致しました。
さらに残してゆく者に対する「のちの日々をながく生きてほしさびしさがさびしさを消しくるるまで」は、「私」に会えないつらい日々に耐え、いつかそのことを従容と受け入れられる日まで長く生きてほしいという心からの願いであると受け止めました。
ご自分の生きた証として短歌を40年詠んだという河野裕子さん。
その生きざまが伝わる「蝉声」に心打たれ、私も短歌の世界に触れてみたいとしみじみ思っているところです。
家族の歌 河野裕子の死を見つめた344日
私は何十年も前からの河野先生のファンでした。某新聞社の週1回の短歌欄の選者としてのコメント、その歌、大好きでした。
同じ病気で亡くなられたことも知りましたが、怖くてなかなかその後に出版された本が読めませんでした。このご本は、ご家族が続けて紡がれた珠玉の短歌&エッセー集です。
一度に読むのがもったいなくて、机の上に置いて、何日にも分けて読ませていただきました。最後の最後まで歌を詠んでいかれた河野先生。先生を見守られたご家族。もったいなく、うらやましいほどの、すばらしいご家族の姿をすっきりと、そのままに見せていただきました。ありがとうございます。