ハチはなぜ大量死したのか
一年間「積ん読」状態だった本書を読み進め、もっと早く読めば・・・と後悔した。
今年出会った最良の一冊である。名著「沈黙の春」が、いまなお輝きを失わないように、
本書「実りなき秋」(原題)も、古典への仲間入りを果たすだろう。
ミツバチの大量死を通じて描かれること、それは、自然の復元力を削ぐ形で急拡大を
続けてきた農業の、いや、現代社会の在り方への強い警告だ。
福岡伸一氏の見事な解説も秀逸だが、
訳者である中里氏が詳細に書いて下さっている、ニホンミツバチの話にも希望の地平を見た。
これは、ハチの話ではない。問われているのは、私たち人間だ。
これからも、来年も再来年も、一人でも多くの人が、本書と出会う事を願わずにいられない。
金正日 隠された戦争―金日成の死と大量餓死の謎を解く (文春文庫)
一九九四年の金日成の死とその後の大量餓死の謎を、多くの資料を海外に求め地道に歩き回って解明しようとした力作です。
北朝鮮に赤旗特派員として駐在するなど一時は社会主義の模範の国と憧れた国への特別な思いが迸る文章も熱く、引き込まれるように読み進めました。
金正日が父親を謀殺し、さらに、反対派粛清のために意図的に飢餓まで作り出したとの著者の仮説にはやや無理があるように思えますが、それを疑わしめるだけの事実を次々と突きつけていく展開は迫力十分で、北朝鮮の複雑な内情を改めて考えさせられます。
著者は金日成との比較で金正日の保守性を批判していますが、やや遅れて出た河信基著『金正日の後継者は在日の息子」は対照的に、金日成の限界を指摘し、金正日が市場経済化などの開放・改革政策へと向かわざるを得ない必然性を説いています。
性急にどちらが正解かなどと求めず、二書を比較しながら読むと、北朝鮮の状況がより鮮明に見えてくるのではないでしょうか。
ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)
蜜蜂がある日突然巣箱から消えさってしまう、その原因を探ることで複雑に絡み合った生命の連鎖を垣間見ることができる。
そして、自然ではない状態におかれることで免疫力が低下することや、一つの連鎖が断ち切れることでそのサイクル全てが崩壊してくメカニズムを知ることができる。
しかし、自然な状態に戻ることで、本来の復元力を取り戻せることも明らかになっている。
ふと、人工的なシステムに組み込まれた人間の将来を案じずにはいられなくなる。
ハチを通して微妙なバランスの上に成り立っている生命について考えずにはいられなくなる良書。