火床より出でて (小学館文庫)
本書をはじめ、この人の小説は読んでいるうちにどうしてもセリフが山上漫画のキャラで
脳内再生されてしまう。商店街のおやじとか若奥さんなどが、緻密な背景とともに浮かんでくる。
個人的にはものすごく映像的な小説家の一人。
漫画の「中春こまわり君」も最近は地方を舞台にしたミステリー仕立てになってきており、
山上氏がなんかのインタビューで「松本清張が好き」と語っていたのを思い出した。昔の
「がきデカ」の扉絵も連載後半は地方の風景(日本海側や北海道など寒そうなとこが多かった)
をバックにこまわり君がポーズとっているパターンが増えてきたのもそのせいらしい。
半田溶助女狩り the complete edition
山上たつひこの漫画はほとんど読んでおりますが、なぜか一番笑ってしまいます。台詞もよく覚えております。「がきデカ」にここが使われたのだと思えるシーンが連発でニタニタしてしまいますが、それとは関係なく、絵も荒いし、ストーリーも練れいないものが多いのですが、多分僕は山上たつひこの作品の中ではこれが一番好きかも知れませんね。「ぶぶ漬でもどうどす」「麻雀(あさすずめ)をやるのだ」「冗談じゃないわよ、ふん、○○じゃないわよ」とか体操部の男子の訓練とか、ほんまにこの作家の頭はどうなっているのか?といつも感心しながら読んでました。まあ電車の中では読めませんがね。強烈度ではこの半田溶助が一番では。
光る風
私がこの作品に最初に出合ったのは、朝日ソノラマから発行された上下二巻本でした。
私の驚きは、あの有名なギャグマンガ『がきデカ』の作者がこんなにシリアスな作品を書いていたという事実と同時に、当時学生運動が挫折して社会が右傾化をはじめた中で、やがては戦中戦後よりも過酷な全体主義に移行する危険性をリアルに予感させる作品だったことです。
朝日ソノラマ版は友人のあいだを貸し回している間に紛失し、いずれ古書店で見つけたら買っておこうと思っているうちに、その古書は高騰してずっと買いそびれていました。
それが、連載当時の完全版として発行され、飛びつくように購入して改めて読むと、内容の一つ一つがシチュエーションは異なるものの、あまりにも現代の状勢に接近していることに愕然としました。
『光る風』に書かれた差別、格差、軍隊のあり方など、ことごとく今の日本は当てはまりつつあります。
山上たつひこは、『光る風』のなかで日本が全体主義に移行する現象の一つとして、防衛庁が「国防省」に昇格することを指摘しています。名称は「防衛省」と異なりますが、かつての防衛庁は「省」に昇格し、そのトップは「長官」から「大臣」になりました。
さらにここ数年、大地震などの災害が予測されていますが、『光る風』の中の為政者は、大災害までも全体主義確立のために利用していきます。
何十年も前に初めて読んだとき、エンディングに敗北主義を感じて気になっていたのですが、2008年の現在改めて読むと、このエンディングに続く日本の将来をどう描くのかは、読者である我々の選択にかかっていると、問題を投げかけているように感じられました。
差別や格差はなぜ作られるのか、なぜ、防衛庁は防衛省になったのか、これらはすべて「自分には無関係」なことではなく、実は誰にとっても大変身近なことです。
『蟹工船』を読む若者たちなら必ずそれを理解できるはず。ひとりでも多くの人に読んでほしい作品です。
出版社に一言言わせてもらえれば、定価が高すぎる。せめて2000円以内にならなかったものでしょうか。
主婦の生活完全版
「こんな漫画初めて見たよ!」
と息巻くほどエポックメイキングでもないんだけど、独特な漫画。
表題作の「主婦の生活」は題名通り主婦の昌代さんが生活の中で起こる
様々なトラブルを解決していく話。全三話。
主婦の実生活に根ざした、調理用具だの家の新築だの今日の献立だの
から非日常に向かってく様が見事ですげえ話に惹かれる。
「ごめん下さい」っつう、これまた若い夫婦と姑の掛け合い漫画が
2話同時掲載されているけれど、個人的に面白さは主婦の生活程でなし。 どっちも面白いけどね。