タタド (新潮文庫)
小池昌代の「タタド」です。詩人が描く世界感はやはり独特です。自分の心の襞を覗かれているような、見つめられているような気分になります。3つの短編が収められていますが、どの物語も時空がずれているよな物語です。ありそうで絶対無い世界なのです。それは正に詩人だからこそ生み出せた世界感なのです。
その世界感を感じることが、即ち物語を理解することにつながります。その時空のズレを「楽しむ」ことが作者の提示した世界なのです。そのズレを楽しんでみましょう。
ことば汁 (中公文庫)
川上弘美氏や小川洋子氏の幾つかの作品と趣が近いな、というのが第一の印象。そしてそれは、当然のことながら否定的な意味ではない。そもそも、彼女たちと同じ次元で物を書けること自体が、とんでもないことなのだから(彼女たちがこの著者と同じ次元で書けることもまた、同義ではあるが)。『裁縫師』を初めて読んだ時の衝撃以来、このひとは私の中で常に気になる存在になった。そして今作もまた、素晴らしい作品が揃っている。なかでも『野うさぎ』は凄かった。ものを書けなくなった物書きが、森の中で老婆と出逢う・・・物語は起伏に富んでいるが、その流れ方は何とも個性的だ。現実と妄想のコントラストのつけ方が絶妙といおうか・・・おそらく、言葉に対する嗅覚のようなものが、このひとは優れているのだろう。そのうえで、感覚的に物語を綴っていく。たぶん、本当はものすごく構築的に考え抜かれているのだろうが、それを感じさせない夢のような物語・・・やはり、このひとはすごかった!!!
転生回遊女 (小学館文庫)
詩人でもある著者初の長編。リズム感のある文章なので、あっというまに読めてしまう。
17歳の桂子(かつらこ)は、舞台女優の母親を突然の事故で失う。名脇役だった母親は愛に生きた女でもあり、桂子は自分の父親を知らないまま、母の大きな愛情に包まれ、美しい娘に育った。悲嘆の最中、舞台女優にならないかというオファーが舞い込む。その決心がつかないまま、桂子は宮古島を訪ね、圧倒的な自然の中でさまざまな人々と出会い、女としての欲望を目覚めさせ、人間としての可能性を開花させていく…… 。
小池氏の作品にはつねに死の陰がちらついているが、今回は、生と性のエネルギーに溢れた、パワフルな物語だ。登場する女性、とりわけ、世間の常識から解放された母親は、ミステリアスでとても魅力的。また、東京のイチョウや、南国のエキゾティックな樹木との桂子の交感のさまは、幻惑的で不思議なエロスをたたえている。
ただ、対する男たちがあまり魅力的には見えず、ニンフォマニアの話だととる人もいるかもしれない。桂子の無垢さと自由奔放さのバランスにも、評価が分かれそうだ。また、桂子が華々しくデビューするアングラ劇については記述が少なく、肩すかしをくらった気分が残った。