鍵盤音楽の領域vol.1
4月2日、松本記念音楽迎賓館で、武久源造が弾いた「ラ・ミ・レの上で」という曲が気に入って、ぜひもう一度聴きたいという思いから、このCDを買った。
「ラ・ミ・レの上で」は、作曲者不明。バロック音楽の常識から見たら、全く型破り、自由奔放で面白く、どことなく東洋的な旋律で、盆踊りのような節まわしも現れるが、バロック的な美しさも加わっている。
松本記念音楽迎賓館で、親しい友人、知人に囲まれて演奏したものと比べると、CDに収録されている演奏はちょっと固い感じがする。
CDには13曲が収められており「ラ・ミ・レの上で」以外では、バッハのトリオソナタBWV853が面白い。
録音は非常に良く、古楽器の音の美しさを完璧に伝えている。
鍵盤音楽の領域 vol.8 バッハ meets ジルバーマン・ピアノ
ヨハン・セバスチャン・バッハの生きていた、
当時のフォルテピアノによる演奏です。
このCDを聴くと、果たして現代の頑丈なグランド・ピアノが
前時代の貧弱なフォルテ・ピアノの欠点を改良して発展してきた
という通説が、ただしいものだったのか?と思わず考えさせられて
しまいます。
出てくる音は「予想通り」でもあり、「予想以上」でもあり、大変興味深い
ものです。
まだチェンバロみたいな、ちょっと金属的な音がしますが、聴く前に想像していたよりは、
ピアノ的な表現が出来、案外力強い、ドラマティックな表情も出せます。
チェンバロやオルガンではレバーや、多重鍵盤などによる『切り替え』でしか
多彩な表現が出来なかったことを考えると、ちょっとした指先のタッチの
仕方で強弱や表情の変化を付けられる新しいピアノがいかに画期的なもの
だったか、なのに大バッハはこの後すぐに亡くなってしまい、ほとんど
この楽器による音楽を残せなかったことなど、歴史の皮肉を感じさせられますね。
そんな、歴史的価値を抜きにしても、音色が非常に典雅な感じで
BGM的にも、リラックスできる良いCDだと思います。
参考までに指先で強弱の付けられるもう一つの鍵盤楽器、
クラヴィコードによる名演CDも紹介しておきます。
レオンハルト/クラヴィコード・リサイタル
ゴールトベルク変奏曲
家の近くに 休日一人で行く喫茶店がある。喫茶店に一人で行くのは
大学卒業後 ながらくやっていなかったが 再開してみると楽しい。
知り合いになったマスターと 雑談しながら30分ー1時間程度を
過ごす休日の午後は ばたばたしている日常生活において もはや
立派な ハレの空間である。
その喫茶店で 本アルバムを聴いた。ゴールトベルグ変奏曲は数えて
見ると 既に5枚アルバムを持っている。本作は6枚目になって
しまったわけだ。
チェンバロが歌う。グールド1stアルバムがジャズに例えられた
と聞くが そういう意味でいうと 本作は演歌のようにバッハを歌う。
こぶしの入る瞬間が聞こえる。演奏している武久が首を振りながら演奏
している姿すら目に浮かぶ。
日本人だから そう聞くのかもしれない。欧州の方に聞いて貰って
感想を聞きたい。日本人もなかなかやるではないか。そんな風に言って
貰っても良いアルバムだと 日本人たる小生は 思っている。
鍵盤音楽の領域vol.3
1996年10月に山梨県北杜市で録音された、武久源造による、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)の小品集のCDです。収録曲は…
●インヴェンションとシンフォニア、BWV.772〜801(全30曲)
●小前奏曲、BWV.924〜932・934・936・937・939〜942(全16曲)
です。総収録時間は74分19秒です。
曲はBWV順ではなく調性ごとに並べられていて、ハ長調(4曲)→ハ短調(3曲)→へ長調(4曲)→…などと続いていきます。これらの曲を武久は、小型オルガン、チェンバロ、クラヴィコードを使い分けて弾いています。その音色の違いを楽しむのも一興でしょう。
短い曲では40秒、長い曲でも4分足らずなので飽きません。バッハのミクロコスモス(小宇宙)を堪能できる一枚です。
DVD BOOK(1)チェンバロ〜歴史と様式の系譜
日本におけるチェンバロ製作の第一人者久保田彰によるチェンバロ解説のDVDBOOK。チェンバロの構造やメンテナンスなど、詳細は『図解チェンバロメンテナンス―チェンバリストと技術者のために』に詳しい。本書はカラー写真をふんだんに使って、目でも楽しめる本に仕上がっている。DVDではチェンバリストの曽根麻矢子、水永牧子が様々なチェンバロやヴァージナルを演奏して聞かせてくれる。しかし何と言っても圧巻は武久源造による即興演奏。前奏曲とフーガと思われる。フーガに入り、多声を緻密な構造で作り上げ、そして解決に導いていく腕の冴えは驚嘆的だ。自身としても会心の出来だったのであろう。演奏しながら笑みがこぼれている。武久という音楽家がこれほどの実力を持った人であったのか!と初めて知らされた。古楽はもはや珍しくも特別のものでもなくなったが、まだチェンバロに馴染みがなく、聞いてみたいと思っている人にお勧めしたい、と同時に、今までチェンバロ演奏を見たことのなかった愛好家にも是非お勧めしたい。