サーク・オン・サーク (INFAS BOOKS―STUDIO VOICE‐boid Library (Vol.1))
ダグラス・サークという映画監督さんをご存知でしょうか。
フォードやホークスやワイラー・・・といったハリウッドの名匠ほどに有名ではないかもしれませんが、1940〜50年代にハリウッドで映画を撮り、ロック・ハドソンの出演作は8本も撮っている人です(風と共に散る、天が許し給うすべて、など)。
この人は実はドイツ人で、ナチを逃れてアメリカに亡命しました。で、この本は、晩年アメリカを去りスイスに住むようになってからジョン・ハリデイというひとがサーク氏に行ったインタビューをまとめたものです。
サーク氏の映画はメロドラマ、といわれていますが、色々な事情を抱えた大人たちが、その精神的弱さと欲望・愛・希望などに翻弄されながら生きるさまを描いています。つまり、理想的なヒーローチックな人物たちではないのです。結構みんな割り切れない、矛盾した行動をとってしまう現実の自分の人生を抱えながら生きている、というのが、なんか美しい音楽とともに、心優しい、だけどカメラとしての冷静さ、をもって、描かれてしまうのです。
そういう映画を作るサークという人は、とても礼儀正しく、ヒューマニスティックで、ユーモアがあり、博識でアイロニックで、もう噴出したくなるようなお話し上手な、魅力的な人です。
アメリカに渡る前は、ドイツで映画・演劇に頭角を現していたので、ドイツやヨーロッパの作品についての見識も深いし、才能のある人なので、ドライヤーやルノワールの素晴らしさ、についても、語ってくれていますし、照明やカメラが表現においてどういう役割を持つか、登場人物の性格の注目点、など、映画作家としての核心も、語ってくれています。彼が生きた時代の関係で、ナチ前後のドイツというものが、どういう感じだったか、も分かります。
また、翻訳者の明石氏がそういったサーク氏の人柄を理解されているような素敵な話し言葉で訳してくださっていると思います。明石氏によるサーク氏のバイオグラフィも付いていて、それによってインタビューでは分からなかった、サーク氏の人生の色々な事情も補足できます。また、フィルモグラフィや演劇など、資料も大変詳しいです。
サーク氏のDVDは、また、出版されるようですし、彼の愛情のこもった大人の視点、というものをもっともっと理解・堪能したい、と思います。