入手後、即装着しました。形状からでしょうか、フィット感に若干の課題があり取り付けには苦慮しましたが、デザインには満足しております。

主人公の男は
醜い外見をとられて
決まり文句のように
「エレファントマン」
と呼ばれて蹴られて育ちます。

皆の前で
「エレファントマン」
とバカにされ酒のつまみにされて育ちます。

人をバカにし笑いものにするのが
育て親のコミュニケーションだったのでしょうか。

そんなコミュニケーションはいらない。
人の痛みも分からない育て親の鈍感さにがっかりしました。

それぞれの人には目の覚めるような豊かな特徴があるのに
個性的な特徴を完全に無視しよく考えて正確な言葉で描写しない、
つまり育て親は知的に怠惰な人だったのです。

そんな人の気持ちを思いやらない人の下で
もう生きていたくなかったに違いありません。

そんな彼が、
自分を名前で呼んでくれる友達に誘われて、
自分を訪ねに来てくれた劇を見に行き、
そこには自分の名前で予約された劇場の指定席があって、
その指定席に座った時の彼の気持ち、
どんなだったろうなと想像したら涙が止まりませんでした。

　『週刊少年チャンピオン』誌上において20年に渡って連載し人気を博した格闘漫画『グラップラー刃牙』！
　本書はその作者である板垣恵介氏が自らの半生を振り返る自伝的作品である。

　板垣氏を知ったのは『格闘技マンガ最強伝説』〈1996〉で川原正敏『修羅の門』、猿渡哲也『高校鉄拳伝タフ』、との当時格闘マンガの分野で熱狂的な人気を誇っていた漫画家鼎談による座談会だった。
　私自身、『刃牙』は知っていたものの作品自体読んだ事はなく、『アメトーーク!』で放送された「グラップラー刃牙芸人」〈2010・6・17放送〉を見た程度の認識だった。
　ただ、その作者である板垣氏は以前から気になる存在であり、吉田豪著『人間コク宝』に登場する板垣氏のインタビューを読んで、明らかに他の(世間一般の)漫画家たちとは違った感性(漫画家としてのアイデンティティが本宮ひろ志氏に近い)を持った印象を受けた。
　自衛隊出身(ここでも本宮氏と通じるものがある)でアマチュアボクシングで国体に出場し、その後職を転々としながらも32歳で漫画家デビューという異色の経歴を持つ板垣氏に興味を持っていた矢先に本書の存在を知って手に取った次第である。

　少年期、青春時代、自衛隊の頃の挿話も面白いのだが、なかでも印象的だったのが、プロボクサーを目指そうとした矢先にB型肝炎でダウンし、ボクサーの道を閉ざされた時に以前から関心のあった漫画の世界で食べていく決意をしたところからだ(当時25歳)。

　この時ネームも何も知らない状態から烏口で綺麗な線を引こうとして40分、下書きの１コマ目に着手してあっという間に2時間が経過してはやくも暗雲が立ち込める状況に追い詰められるのであるが、板垣氏が凄いのは己の人生経験(自衛隊や格闘技体験を含めた)で培われてきた絶対的な(ブレない、投げ出さない)精神力だろう。漫画家決意からデビューまでの間に奥さんがいて、子供が生まれて収入がなくても借金させてでも一度決めた道を信じて突き進む氏の精神力は並々ならぬ決意である事がよくわかる(その夫に不安を抱えながらもついてきた奥様の内助の功も素晴らしい)。

　ただ、決して順風満帆とはいかず、漫画家決意後の26歳から30歳までの間に一本の作品もできなかった時期があり、ネームが描けなかった、コマワリができない、一ヶ月も二ヶ月もかけて描いていると、そのうちに自分で自分の作品に飽きが来てしまうという悪循環を4年間繰り返し、結局、一本の作品もネームもあげなかった時期が続いた事だ。
　そして30歳の時に一念発起して高橋留美子『うる星やつら』や原哲夫『北斗の拳』を輩出した小池一夫氏主催の劇画村塾に入門！

　特筆すべきは、8頁の課題を与えられた時に諸事情により病院の待合室で描かざるを得なくなってその後、残り１，２頁が描けなくなって仕上げる事ができずに受講した時に塾生たちが課題を提出しているのを見て、居てもたってもいられず、受講直後、近くの公園へ行き、水銀灯の下で30分くらい残りを仕上げて、その日に提出した後日、名指しで自分の作品が評価された挿話だ。
　自分が見つけて進んだ道で何度か挫折しそうになりながらも間に合わせて初めて評価を受けた時、これを体験した板垣氏にとっては人生においての何よりもかけがえのない財産となっている事がよくわかる挿話だ。事実、それまでなかなかネームができずに原稿を仕上げる事ができなかった氏が、この日を境に一ヶ月に一本、ネームではない完成原稿を提出して、それまでの100倍以上のスピードで描けるようになった事になり、意識がガラッと変わったのだから。
　これは実感した人にしか分からないかもしれないが、自分で始めた事で人から見ればわすかな成果でも当人にとってはそれが自分の人生においても大きな糧となってその後の人生に大きな影響を及ぼす事があるのだから、その時実感した成功体験と自信というのはいかに大切であるかがよくわかる(余談だが、『ワンピース』の作者・尾田栄一郎氏も同じような挿話があり、間に合わないなか切羽詰りながらも原稿を仕上げて応募〆切りギリギリ間に合わせて出版社に送った作品が手塚賞準入選を果たした体験が今日の自分にとっても大きな支えになっている事を語っておられた)。その他にも、『沈黙の艦隊』の作者・かわぐちかいじ氏との漫画に対する挿話も興味深い。

　最後に3・11東日本大震災についても触れているが、「エピローグ 未来」に寄せられた板垣氏のメッセージは最も印象に残りました。これは被災者のみならず、我々にも通じるメッセージだと思います。悲劇を引きずらず、そこから立ち上がって未来の自分に向かって！