本書は2部から成り、第1部は無名(以前はスレイマンとの説もあった)作者が851/2年に著わしたもので、本書「第一の書」にあたります。第2部はペルシア湾岸のシーラーフの人アブー・ザイドが915/6年に著わしたとされるもので「第二の書」に相当します。第一部は全267頁中本文は76頁迄。77頁以降は訳注で解説は204頁から。第二部は275頁中本文は94頁迄。以下214頁迄が訳注で、それ以降は写本や研究の解説となっています。つまり、本文は170頁程度。本書は、膨大な訳注がメインであり、本文付の研究書と考えた方が良いものと思います。なお、ほぼ本文に多少の訳注をつけたものには、藤本勝次氏
シナ・インド物語 (1976年) (関西大学東西学術研究所訳注シリーズ〈1〉)(こちらは120頁)があります。
本書は、最盛期の
ローマにて、1世紀初に
紅海からインドまでの航路と地誌を記載した
エリュトゥラー海案内記 (中公文庫)に匹敵する、最盛期のアラブ版、とも言える非常に貴重な存在だと思います。
本書は、黄巣の乱に言及されていることで有名ですが(第二の書)、私が印象残ったエピソードの一つは次の部分
「この世に数えるに値する王は4人で、その第1はアラブの王、次にシナの皇帝、次はビザンツの王、続いてインドの王」という世界観が描かれている部分(第一の書と第二の書双方に出てくる)、及び、長安の中国皇帝を訪問し、皇帝と問答した商人の話です(第二の書)。あと、中国人が用便をたした後、紙で拭くことを不衛生(著者の文化では水で洗うことが衛生的)と見ている視点。
マルコ・ポーロやイブン・バットゥータが描いた中国のエピソードは有名ですが、本書は意外に知られていないような印象があり、宣伝したいと思った次第です。