島津奔る〈上〉 (新潮文庫)
戦国時代末期に勇名を轟かせた薩摩の武将、島津義弘の生涯に新たなスポットを当てた歴史小説。
本作での島津義弘は、現代的な視点を持った、時代を超えた智者として描かれる。豊臣秀吉に、戦争経済の破綻と日本の不良債権化の危機を説き、徳川家康に、日本の安定成長戦略を説く。歴史小説のリアリティからすれば、このような台詞はありえないが、本作を現代的視野でのポストモダン的歴史小説ととらえ直せば、不思議と説得力をもってくる場面だ。
本作には何度かの合戦が描かれる。冒頭から、朝鮮出兵でたった6000人で20万の明軍を破る泗川の戦いがあり、ハイライトには、あまりにも有名な、関ヶ原の戦いの敵中突破が描かれる。敗軍の将が、敵中枢に突撃し、膨大な犠牲を出しながらも退却に成功する、というこの部分の描写はすさまじい。が、この描写が司馬遼太郎氏の”関ヶ原”の盗作である、と訴訟を起こされ、結果本書は刊行中止になってしまった。確かに両者を見比べると、その類似性は隠すべくも無い。ただ、歴史的事実に立脚している以上、そしてその事実があまりに劇的である以上、かような類似性はいたしかたないものではないか、と、その裁判の経過を見ていたものとしては残念に思えてならない。
内容は傑作といってよいと思う。人気大河ドラマの原作にもなりえただろう。が、その事後対応の悪さから、日本小説史の闇に消えていった本。本書のことを思う度、優れたコンテンツには、またそれをサポートする出版社などのインフラが欠かせないのだ、と思わされるのだ。
本作での島津義弘は、現代的な視点を持った、時代を超えた智者として描かれる。豊臣秀吉に、戦争経済の破綻と日本の不良債権化の危機を説き、徳川家康に、日本の安定成長戦略を説く。歴史小説のリアリティからすれば、このような台詞はありえないが、本作を現代的視野でのポストモダン的歴史小説ととらえ直せば、不思議と説得力をもってくる場面だ。
本作には何度かの合戦が描かれる。冒頭から、朝鮮出兵でたった6000人で20万の明軍を破る泗川の戦いがあり、ハイライトには、あまりにも有名な、関ヶ原の戦いの敵中突破が描かれる。敗軍の将が、敵中枢に突撃し、膨大な犠牲を出しながらも退却に成功する、というこの部分の描写はすさまじい。が、この描写が司馬遼太郎氏の”関ヶ原”の盗作である、と訴訟を起こされ、結果本書は刊行中止になってしまった。確かに両者を見比べると、その類似性は隠すべくも無い。ただ、歴史的事実に立脚している以上、そしてその事実があまりに劇的である以上、かような類似性はいたしかたないものではないか、と、その裁判の経過を見ていたものとしては残念に思えてならない。
内容は傑作といってよいと思う。人気大河ドラマの原作にもなりえただろう。が、その事後対応の悪さから、日本小説史の闇に消えていった本。本書のことを思う度、優れたコンテンツには、またそれをサポートする出版社などのインフラが欠かせないのだ、と思わされるのだ。
最後の忠臣蔵 (角川文庫)
1702年12月15日の討入り前後、共に大石内蔵助の密命を帯びて苦難の道を歩む二人の「侍」瀬尾孫左衛門(刈屋孫兵衛)と寺坂吉右衛門の物語。確かな構想力と筆力そして豊かな想像力で、残された赤穂一党の人々のその後の人生に仮託して、人生の哀歓と人間の高貴さ、出会いと別離、侍魂と連帯の美しさなどを見事に描き切った池宮忠臣蔵の精華である。
それにしても、近衛家の家宰となった進藤源四郎(播磨守長保)の存在(104頁など)や六代将軍家宣の側室(その世子である七代家継を生んだお喜世の方)の兄分が富森助右衛門であった(177頁)という記載は、史実なのであろうか。大変興味深い。また、多くの赤穂浪人が公家侍になったのであれば、その子孫が幕末期にはどのように行動したのか(特に徳川幕府に対して)等々、興趣は尽きない。
12月18日公開の映画化も大変楽しみである。
それにしても、近衛家の家宰となった進藤源四郎(播磨守長保)の存在(104頁など)や六代将軍家宣の側室(その世子である七代家継を生んだお喜世の方)の兄分が富森助右衛門であった(177頁)という記載は、史実なのであろうか。大変興味深い。また、多くの赤穂浪人が公家侍になったのであれば、その子孫が幕末期にはどのように行動したのか(特に徳川幕府に対して)等々、興趣は尽きない。
12月18日公開の映画化も大変楽しみである。
最後の忠臣蔵 [DVD]
知る人ぞ知る傑作「十三人の刺客」(工藤栄一監督)の脚本家池上金男(池宮彰一郎)の原作によるドラマ。ジェームス三木の脚色が冴えに冴えている。だから原作とは大小幾つかの違いがある。立会いの後、吉右衛門が山吉新八郎に竜胆を手渡す佳いシーン、原作はあべこべで花も違う。新八郎が吉右衛門に満天星を手渡すのである。大きな相異は吉右衛門と篠との関係である。本作のような色模様は原作にはない。吉右衛門が惚れるのは原作では夫が逐電して残されたまだ若く美しい槇であるが結局片思いで終る。本作では進藤源四郎(江守徹)や天川屋(津川雅彦)が精彩を放ち、将軍綱吉の造形が珍妙で強く印象に残る。また、ちょっと出る“日本一の斬られ役”福本清三の清水一角が立派。あれやこれやスタッフ・キャストの意気込みを感じる見所いっぱいの作品である。こういう秀作を見ると、民放のCM混じりの粗製ドラマなど益々見る気がしなくなる。あっ失礼、民放ドラマのファンもいるのですね。
四十七人の刺客〈上〉 (角川文庫)
内匠頭は何故刃傷に及んだのか、その真相は全く不明であり一般に信じられている様な吉良による陰湿ないじめといったものも一つの仮説でしかない。
本書では刃傷の原因は不明のままとし、吉良が内匠頭に賄賂を要求したが拒否されたためにいじめられたのだという噂を大石らが意図的に広め、世間を味方につけたのは面白い解釈だと思う。
何といってもクライマックスの討ち入りの場面は迫力満点で、「十三人の刺客」など多くの傑作時代劇の脚本を手掛けてきた著者だけのことはある。
数ある忠臣蔵の中でお薦めの一冊。
本書では刃傷の原因は不明のままとし、吉良が内匠頭に賄賂を要求したが拒否されたためにいじめられたのだという噂を大石らが意図的に広め、世間を味方につけたのは面白い解釈だと思う。
何といってもクライマックスの討ち入りの場面は迫力満点で、「十三人の刺客」など多くの傑作時代劇の脚本を手掛けてきた著者だけのことはある。
数ある忠臣蔵の中でお薦めの一冊。