新生 (NOVAコレクション)
別々の雑誌に掲載された三篇からなる本作は、しかし連作を想定して造られたかのような一貫性を持っています。
ただ一本目「新生」は本来ギミックやロジックを組み上げて語るべき内容をむき出しのまま、感覚だけで仕上げたようなきらいがあるため、読み終えて共感できる人のほうが少ないのでは、と感じました。……ただし「ミシェル」を読んでから振り返ってみると、感想が変わるかもしれませんが。
真骨頂は「Wonderful World」・「ミシェル」。
前者は読んでいる途中、伊藤計劃の「ハーモニー」のごとき世界観を、希望を感じさせるタッチで描きます。両作品の中で中核として語られる人物は「音楽を奏でるように言葉を紡ぐことの出来る」天才博士ミシェル(と、その父マルセル)・ジュランであり、中でも遺伝子(ジーン)・シンセサイザーを演奏するきらびやかな描写は多幸感に溢れ、奥泉光の「鳥類学者のファンタジア」でも触れられたピタゴラス音階に言及される辺り、知っている身からすると嬉しかったりしました。
……何年も前の学生時代に「Brain Valley」を読んで「まさしく科学的なフィクション、これぞSFだ!」と驚嘆したことを今でも覚えています。
著者の持ち味である「科学(化学)的な素養を根幹に大胆な想像を拡げる」ことは今作では成功しているとは言えませんが、その分だけ「希望」や「倫理」を原動力に想像力を羽ばたかせていることは全編を通して感じられることでしょう。
小松左京の筆によるオマージュ元は知らないため、本当の意味で理解できたとはいえませんが「Wonderful World」のハイライトから、先達者たちの描いた未来の、更なる続きを描いていきたいという強い意志を感じさせます。
観念的とも取れる要素を始め、とっつきにくい部分もありますが、『SFは未来をつくる』の売り文句に偽りなしの意欲的な作品集であると思います。
ただ一本目「新生」は本来ギミックやロジックを組み上げて語るべき内容をむき出しのまま、感覚だけで仕上げたようなきらいがあるため、読み終えて共感できる人のほうが少ないのでは、と感じました。……ただし「ミシェル」を読んでから振り返ってみると、感想が変わるかもしれませんが。
真骨頂は「Wonderful World」・「ミシェル」。
前者は読んでいる途中、伊藤計劃の「ハーモニー」のごとき世界観を、希望を感じさせるタッチで描きます。両作品の中で中核として語られる人物は「音楽を奏でるように言葉を紡ぐことの出来る」天才博士ミシェル(と、その父マルセル)・ジュランであり、中でも遺伝子(ジーン)・シンセサイザーを演奏するきらびやかな描写は多幸感に溢れ、奥泉光の「鳥類学者のファンタジア」でも触れられたピタゴラス音階に言及される辺り、知っている身からすると嬉しかったりしました。
……何年も前の学生時代に「Brain Valley」を読んで「まさしく科学的なフィクション、これぞSFだ!」と驚嘆したことを今でも覚えています。
著者の持ち味である「科学(化学)的な素養を根幹に大胆な想像を拡げる」ことは今作では成功しているとは言えませんが、その分だけ「希望」や「倫理」を原動力に想像力を羽ばたかせていることは全編を通して感じられることでしょう。
小松左京の筆によるオマージュ元は知らないため、本当の意味で理解できたとはいえませんが「Wonderful World」のハイライトから、先達者たちの描いた未来の、更なる続きを描いていきたいという強い意志を感じさせます。
観念的とも取れる要素を始め、とっつきにくい部分もありますが、『SFは未来をつくる』の売り文句に偽りなしの意欲的な作品集であると思います。
パラサイト・イヴ [DVD]
結婚して一年、愛する妻自動車事故で死亡した。精神崩壊しかけている永島が妻の肝臓を勝手に遺体から持ち去り、葬儀にも参列しない。妻に語りかけるようにして肝臓を慈しみ培養する。ある日、肝臓のミトコンドリアは意思を持って動き始めるようになる。一方腎臓移植された麻里子の体に異変が生じる。麻里子は「得体の知れぬ物」を生み出す。それは病院を動き回り…
「ミトコンドリア」の陰謀がテーマですが、聖美が清らかでとても美しい。その現実感のない「美しさ」こそがミトコンドリアの罠であり、永島をある目的に利用していた。その美しさを武器に永島を惹きつけ結婚。そして聖美の交通事故すらミトコンドリアの意思。
しかし、実はミトコンドリアより先に麻里子自身も永島を愛していました。ラストの屋上での永島の炎上シーン。むしろハッピーエンドのようで泣けます。
「ミトコンドリア」の陰謀がテーマですが、聖美が清らかでとても美しい。その現実感のない「美しさ」こそがミトコンドリアの罠であり、永島をある目的に利用していた。その美しさを武器に永島を惹きつけ結婚。そして聖美の交通事故すらミトコンドリアの意思。
しかし、実はミトコンドリアより先に麻里子自身も永島を愛していました。ラストの屋上での永島の炎上シーン。むしろハッピーエンドのようで泣けます。
ハル (文春文庫)
瀬名秀明と言えば、『パラサイト・イヴ』、『BRAIN VALLEY』が有名だけど、私的には、『デカルトの密室』を始めとするロボットモノのほうが好き。この『ハル』もそのタイトルどおり、ロボットモノ。
ロボット、ヒューマノイドと言ったほうがいいのか、ここのところ、瀬名秀明の小説や評論には、ヒューマノイドを題材にしたものが多い。この『ハル』は、「2001年宇宙の旅」に出てきたHAL2000からその名を取られているように、ロボットを題材にした連作短編集。『デカルトの密室』に先駆けて、2002年10月に出版され、収録されている作品も2000年から20002年にかけて書かれたもので、瀬名秀明のロボットモノの初期のものに当たる。
どれも良かったが、特に良かったのは、「見護るものたち」、「亜希への扉」と「アトムの子」。
「見護るものたち」は地雷除去に従事する地雷犬とロボットとタイの少女の関わりが切ない。
「亜希への扉」は、ロボットを仲介とした小学生の少女とロボットコンサルタントの関係がよく描かれている。
「アトムの子」は、アトムを実際に作ろうとするロボット技術者たちの情熱とアトムがロボットの発展に持つ意味が考えさせられた。
どれもロボットを題材にしてはいるが、そこに描かれているのは、「人間とは何か」、「生命とは何か」という深い問い。考えさせられました。
ロボット、ヒューマノイドと言ったほうがいいのか、ここのところ、瀬名秀明の小説や評論には、ヒューマノイドを題材にしたものが多い。この『ハル』は、「2001年宇宙の旅」に出てきたHAL2000からその名を取られているように、ロボットを題材にした連作短編集。『デカルトの密室』に先駆けて、2002年10月に出版され、収録されている作品も2000年から20002年にかけて書かれたもので、瀬名秀明のロボットモノの初期のものに当たる。
どれも良かったが、特に良かったのは、「見護るものたち」、「亜希への扉」と「アトムの子」。
「見護るものたち」は地雷除去に従事する地雷犬とロボットとタイの少女の関わりが切ない。
「亜希への扉」は、ロボットを仲介とした小学生の少女とロボットコンサルタントの関係がよく描かれている。
「アトムの子」は、アトムを実際に作ろうとするロボット技術者たちの情熱とアトムがロボットの発展に持つ意味が考えさせられた。
どれもロボットを題材にしてはいるが、そこに描かれているのは、「人間とは何か」、「生命とは何か」という深い問い。考えさせられました。
パラサイト・イヴ (新潮文庫)
生命誕生間もない頃に、単細胞生物に寄生したミトコンドリアが、今頃になって反乱を起こすというアイデアは非常にすばらしいと思う。そこに、死んだ妻への未練や、臓器移植者の苦悩などと言った、人間の感情が絡んで展開していくストーリーも見事である。
ただ、ミトコンドリアが結局何を成し遂げようとしたのか、良くわからなかったし、人体自然発火の説明がいい加減である所など、不満点もある。
ただ、ミトコンドリアが結局何を成し遂げようとしたのか、良くわからなかったし、人体自然発火の説明がいい加減である所など、不満点もある。