ヤマトタケル (山岸凉子スペシャルセレクション 10)
作家としての梅原猛先生は、一気呵成に作品を仕上げる名人だったと思っています。梅原作品の持つ炎のエネルギーと、山岸先生先生の持つ懐の深い人間観察力が合わさって、この作品が生まれたのではないかと思います。山岸先生には珍しい筋肉隆々としたタッチが、グイグイとストーリーを展開する梅原作品を見事に具現化しようとしているように感じました。ヤマトタケルは天皇の皇子でありながら、兄の皇太子を殺したことで父王に疎まれ、日本全国の討伐を命じられます。九州で滅ぼした敵から名前を譲られたことは、手塚治虫先生の「火の鳥」でも出てきます。私は、ヤマトタケルと聞く時、全国に散らばる白鳥(しらとり)や大鳥(おおとり)や鷲(わし)など、鳥関係の字のついた神社がとても多いことを思い出します。それらの神社の多くは、ヤマトタケルが亡くなった後白い鳥に化身して、ヤマトの方角に飛んでいったという伝説を伝えていることが多いのです。ヤマトタケルはそんなにもヤマトに帰りたかったのか、と思うと胸がしめつけられるようです。都市で働く人が増えた現代でも、やはりふるさとに帰るに帰れない人々のなんと多いことか。事情は色々あるでしょうが、私自身も、死んだ後でもよいので、鳥になってふるさとに戻れたら、と願う一人です。ここに描かれているヤマトタケルの心優しく気高い人間像は、一服の清涼剤のようです。実在の人物かどうかはともかく、山岸先生のヤマトタケルは追い詰められ傷つき、あまりにも悲劇的ゆえにとてもセクシーで魅惑的です。
日本誕生 [DVD]
名前だけは知っていながら、なかなか見る機会がなかった映画です。読後感は驚くべき映画という一言につきます。構成は、日本の建国神話と日本武尊(タケル)の遠征がパラレルに進行するという形になっています。神話の世界は、主にスサノオノミコトをタケルが想起する形でフラッシュバックするというつながりになっています。特撮を使って描かれた建国神話の世界は、古事記の古めかしい世界からのイメージ上の脱出を可能ならしめ、神話の持つダイナミックで自由な世界が映像と音(音楽は伊福部昭ですよ)で感じることができます。天照大神が岩に閉じ困るシーンでは、多数の神々が登場し、見事なまでの猥雑でのびのびとして自由な世界が、天宇受女命(なんと乙羽信子)の踊りによって描かれます。もっともタケルの遠征も歴史上の事実ではないわけですが、ここは西国や東国での戦いが中心となるため、特撮とロケでダイナミックに描かれます。三船が演ずるスサノオの大蛇との特撮シーンそして剣のいわれ等の建国神話は、初めて気がつきましたが、このような映像で見てみると、限りなくワーグナーの「指輪」を連想させるものです。そしてタケルやスサノオも三船の豪快なパーソナリティで演じられると、その政治性のなさは、限りなくsiegfriedとの共通点が浮かび上がってきます。もっともタケルの最後の締めくくり方の叙情性は、「指輪」の「神々のたそがれ」のエンディングとは異なる世界観に染められているのはいうまでもありませんが。白鳥が最後に舞い上がるシーンはこの異なる世界観を見事に映像で象徴したものです。もっとも、「やまとは 国のまほろば」はちょっと違うシーンで歌われますが。最後に若干の野暮な政治的な当てこすりをさせていただくと、製作された1959年という時代は意味深なタイミングです。占領が終わったのが1951年そして高度成長が1960年とすると、その間のエアーポケットともいうべき数年の間だったからこそ、おそらくこの後は忘れられてしまうことになる建国神話の映像化が可能だったのでしょう。作品のエンディングの古事記からの逸脱と景行天皇の描き方、そして「話し合い路線」への言及も戦後に解禁された歴史観の反映を見ることも可能です。
天翔ける日本武尊(上)
目の前にはっきりと情景が浮かび上がるほどの背景描写。
緊張感あふれ、手に汗握る展開。
物語としても面白いが、それだけではない。
とにかく、購入して読んでください。
生きる指針として、何度も読み返したい作品です。
人として、この世に生まれてきて良かった、と思いました。
日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典
この本はすごい。
なにがすごいって、蛇蔵さんのネームがすごい。
「日本人の知らない日本語」を読んだときは、そもそも凪子先生によるエピソードが面白いのだろうと思っていたけれど、「日本文学」が面白く読めてしまうのは8割がた蛇蔵さんのネームのおかげだと思う。
どんな人なんだとプロフィールを確認したら、コピーライターとのことで、超納得。
物事を面白く切り出すことのプロならではのネームだと思う。
もちろん、内容を構成しているのは凪子先生だろうから一番の功労者は凪子先生なわけだけれど、それを面白く伝える技術というのはまた別の話。
蛇蔵さんはすごい。
そして、中古が専門だった私が読んでも「あ、そうなんだ」という話がいくつかあった。
凪子先生もすごい。
というわけで、この本はとにかくすごい。
女装と日本人 (講談社現代新書)
盛り場での高尚なお話、という感じがする。
なぜかと言うと、すごく私情が前に出て、(内容からいって仕方ないのかもしれないが)そこが鼻をついて少し…という感じはある。
研究書というより、エッセイでもないんだけれど、随筆でもないんだけれど、、研究書とは言いがたい、でも新たな研究書の形なのかもしれない。
著者が新たな性を開拓したように。