全身小説家 [DVD]
井上光晴という作家を知らなかったのですが、この映画を見て小説を読んでみたくなりました。井上光晴は女性と見れば容姿年齢区別せずに口説き、ウソをつきまくります。「えり好みせず来たたまはみんな打つのは偉い」「ウソつきみっちゃんが小説家になった、天職だ」「ウソでも表現してしまえば勝ち」という埴谷雄高の説明に思わず納得。しかし、あんなに難解な小説を書く埴谷雄高が、こんなに解りやすく話ができる人であったとはおどろき。ウソをつかれようと、利用されようと、井上氏とのふれあいを本当に喜んでいる回りの女性達(瀬戸内寂聴も含めて)が美しい。小説を書くとはどういう行為なのか、この映画で初めて知りました。原一男監督万歳!
日本史七つの謎 (講談社文庫)
松本清張他、などといってますが彼はあくまで対談者の一人ですので彼の歴史推理を期待して買うとがっかりします。しかし参加者が歴史学者と作家半々という構成は良い。ゴリゴリのアカデミズムでもなく、作家の垂れ流し座談会でもない興味深い読み物になっている。
ひどい感じ―父・井上光晴
『虚構のクレーン』というタイトルに惹かれて読んだのが、井上光晴という作家を知った最初だった。無骨な文章なのだけれど、その分力があって、ひ弱なインテリなんて問題外、そんな圧倒的なパワーで押しまくられ卒業論文は井上光晴を選んでしまった。しかし、この本を読んで、やっぱり井上光晴に騙されていたか・・・という想いを強くした。でも、実際には炭坑で働いたことはなかったなんて、それはあんまりじゃないと毒づいた。「嘘つきみっちゃん」の面目躍如である。
TOMORROW 明日 [DVD]
8月になると黒木和雄監督の戦争体験や原爆を描いた作品を観たくなる。終戦記念日が季節の風物詩であるわけではないが、彼の作品にはそういった魅力がある。
この作品は黒木和雄の戦争を描いた3部作の一番初めとなるこの作品は長崎の原爆投下の前日から当日のある結婚式に参列した人びとのほぼ24時間を描いている。原爆投下前日に婚礼をあげる男女(佐野史朗、南果歩)出産を控えた女(桃井かおり)、捕虜を病死させてしまった兵士(黒田アーサー)、恋人から赤紙がきたことを告げられた少女(仙道敦子)、出征する兵士の家族の写真を撮る写真館の主人(田中邦衛)等、みんな生きることに対し前向き描かれている。それが、ラストの原爆投下で霧のように消えていく命の残酷さを強く主張している。まさに、作品の冒頭の字幕で流れる「人間は父や母のように霧のごとくに消されてしまってよいのだろうか」という若松小夜子の長崎の証言の言葉をそのまま映像化した作品だ。原爆投下までの日常を淡々と描いているだけに生きることへの欲求、命の尊さがそれぞれのエピソードに深く刻まれている。
それだけに、ラストはキノコ雲ではなく(原爆を描いている作品なのでどうしてもラストは外国人でない限りわかっているので)、その前に描かれた写真の現像室での結婚式の集合写真の浮き出るシーンで終わりにしてくれた方が悲しみ深く終わることができたように思う(ラストより浮き出る集合写真で涙してしまったので)。後期の「父と暮らせば」のような感性に訴える作品ではあるが、最後に物的な表現をせざるを得なかったところはチョット残念。でも、ラストの原爆投下までの時を刻むような久石譲の音楽も素晴らしく、十分命の尊さが観る者の感性に訴えかける作品となっていると思う。
ひどい感じ──父・井上光晴 (講談社文庫)
『虚構のクレーン』というタイトルに惹かれて読んだのが、井上光晴という作家を知った最初だった。無骨な文章なのだけれど、その分力があって、ひ弱なインテリなんて問題外、そんな圧倒的なパワーで押しまくられ卒業論文は井上光晴を選んでしまった。しかし、この本を読んで、やっぱり井上光晴に騙されていたか・・・という想いを強くした。でも、実際には炭坑で働いたことはなかったなんて、それはあんまりじゃないと毒づいた。「嘘つきみっちゃん」の面目躍如である。