最高裁の暗闘 少数意見が時代を切り開く (朝日新書)
「暗闘」というのはあまり聞かない言葉だが,辞書を引くと「ひそかに陰で争うこと」とある。本書は,日本の最高裁判所の内部で闘わされている意見の対立を明らかにしつつ,あわせて米国連邦最高裁判所との比較の視点も交えて,最高裁の「変化」を追ったドキュメントである。
裁判官や裁判所は,その内実があまり知られていないわりには,誤解を受けることがままある。司法権という強大な国家権力を担っているのだから,批判・検討の対象になるのは当然だ。しかし,そもそも民主的機関ではないうえ,専門的な話題に触れざるをえないから,批判や非難を行うことが難しい。敗訴した弁護士は,裁判官のせいにするし(もちろん,それが正しいこともあるのだが)。いきおい,制度的観点からの批判や,ステレオタイプに基づいた抽象的な非難ばかりとなる。本書では,当事者である(元)最高裁判事への取材などを通して,最高裁の裁判官たちがどのような議論を経て判決を創り上げていくのかが克明に描かれていて,司法の内実を知る良い手がかりとなる。1つの事件が,裁判官のみの評議だけではなく,調査官のサポート(ときとして最高裁判事と対立もする),下級審判決からの提案,内閣法制局からの無言の圧力(?)を経るなどして,判決へと結実する様子は,ある種の人間ドラマとしても面白い。
巻末の付録も,なかなか充実している。付録では,裁判官別の個別意見の一覧や,2004年以降に判決が確定した死刑囚の一覧,文献ガイドなどが載せられている。
本書で,最高裁内部の意見形成に興味を抱いた人には,実際に判決を読んでみることを,おすすめする。判決文は,かつては悪文の代名詞みたいに言われていたこともあったが,最近のものはかなり読みやすくなっている。これらは,裁判所のウェブサイトや「裁判所判例Watch」というサイトで見ることができる(裁判年月日と事件番号で検索するのがふつう)。たとえば,予備知識もそれほどなく読めるもので,本書にも取り上げられているものとしては,2009年(平成21年)4月14日の最高裁判所第3小法廷判決(平成19(あ)1785号,強制わいせつ被告事件)がある。痴漢事件で,逆転無罪判決として注目されたものである。
ちなみに,本書の中で,“2011年中にも判決が言い渡される”と述べられている2件の事件については,以下のような結末となった。まず,婚外子(非嫡出子)の相続分差別規定をめぐる民事訴訟(p.190参照)については,判決前に当事者が和解を締結したために,結局,最高裁での判断が見送られることになった。次に,議員定数不均衡訴訟(p.241参照)については,3月23日に大法廷判決が言い渡され,結論としては合憲との判断となった(平成22年(行ツ)129号,平成22年(行ツ)207号)。田原睦夫裁判官と,宮川光治裁判官が,それぞれ反対意見を書いている。
伊藤真の判例シリーズ1 憲法
自分で学習するにはかなり手こずる判例の勉強もこれを読み込めばいいと思います。判旨が答案構成風になって読みやすくなっていてます。やはり判例集だと言い回しが難解であったりしますが、初学者にも極力わかりやすくかかれていると思います。
法解釈講義
法哲学・法思想史の第一人者たる笹倉先生が、法を学ぶ者特にロースクール生向けに、法解釈の手法とその思考方法を多数の有名判例をベースに実践的に解き明かしていく真の良書である。ロースクールでは判例重視の授業が中心に行なわれているが、昨今の最高裁判例至上主義の様相に強い懸念を著者は感じており、判例論理の検証の必要性を強く示唆している。この本を一読すれば、条文解釈の基本と判例論理の分析力がしっかり身につくはずである。また、判例の結論の妥当性の有無のみだけではなく、その理由付け、適用条文、解釈手法(類推解釈等)の妥当性に自然と意識が働くようになるだろう。そのため、新司法試験の論文力向上にも大いに役に立つと思われる。ロースクール生必読の良書である。
司法官僚―裁判所の権力者たち (岩波新書)
約3500人の全国職業裁判官人事機能を果たす最高裁事務総局を中心とし、その役割、組織運営、構成員のキャリア、弊害を解説した書。
判事がヒラメとならざるを得ない実態は既知だったが、その本丸である司法行政機構についての本は初見であり、行政指導のように事務総局側の「従わせるための利益の供与と制裁」を支える、裁判官合同・協議会による『執務資料』を用いた裁判統制、最高裁判決に相当の影響力を持ち、エリート裁判官の経歴の一つである調査官、仮面を被るように国側代理人の訟務検事や刑事訴訟の検事にと顔を変える裁判官、本人にも開示しない人事評価、明確なルールが明らかにされていない転所・昇任・裏金にされている蓋然性の高い昇給等多岐に亘って主権在民を形骸化し、国の番犬たる捜査機関等を守る意味もあって、裁判官をヒラメ化させるべく幾重にも張り巡らされているシステムについて詳しく学んだ。
憲法76条3項及び『裁判所法逐条解説』との乖離や、集権的な人事政策による害を政治は問い、裁判員制度のような誤魔化しではなく、裁判所情報公開法の制定のような根本に手をつけねばならないが、そんな政党は未だない。
高度職業人報酬に細かな段階制度を設ける必要性は低く、裁判官の自立を担保する為の増員、サバティカル(研究休暇)を含む研究・研修の充実、事務総長・各局局長等枢要ポストの職業裁判官専有ではなく、プロパー職員の登用、法的に開示請求権を市民が持たず、開示に伴う苦情申立もできず、裁判所側も法的開示義務がないような欠陥だらけの『司法行政文書開示要綱』に代わり、裁判所情報公開法を制定する事から司法は開かれるとの提言にも頷いた。
知事抹殺 つくられた福島県汚職事件
福島第1原発事故の収束を絶望的な希望を持って祈るだけの毎日ですが、現在、暗澹たる気持でこの本を読んでいます。この福島第1原発事故が、東電経営者、東電の回し者の学者、官僚、政治家らによって作られたものであり、この著者の「蹉跌」もこの黒いネットワークによって作られたものとの感を深くしています。歴史に「もしも」と言うことはあり得ませんが、痛切に「もしもこの著者がそのまま福島県知事であったならば、今回の福島第1原発事故の生じ方も決定的に違っていたかも知れない。」と思っています。東電の度重なる事故隠し、約束違反に抗議を続けた知事が、マスコミも加えた黒いネットワークと、出世だけを考える東京地検特捜部の検察官に潰されていく姿は、今後の日本の行く末とダブって見えてきます。