アバドは、ベルリン・フィルの音楽監督にまで上り詰めた、自他ともに認める超一流の指揮者なのだが、私にとっては、アバドは、優等生的なイメージが付いて離れない指揮者でもある。アバドは、この曲を、1981年、彼が48歳時に、ロンドン交響楽団とレコーディングしているのだが、そこでは、そんな私のイメージを払拭するような、極彩色の原色で荒々しくキャンバスに塗りたくった油絵のような野性味溢れる演奏を繰り広げており、その演奏は、デュトワ、ゲルギエフ、ショルティ、チェリビダッケ、フェドセーエフらの名盤を押しのけて、長らく、私の愛聴盤となってきた。 今回、アバドが、銘器ベルリン・フィルを得て、1993年、彼が60歳時にライブ録音したこのCDを、初めて聴いてみた。前回録音時から12年の時を経ても、演奏時間が32分26秒と、わずか22秒しか速くなっていないのは、いかにも精緻なアバドらしいと思う。しかし、演奏の中身は、かなり変化しており、今回の演奏は、年齢と経験を重ねたアバドが、細部まで木目細やかに描き分けた水彩画のイメージである。私自身は、この曲の性格から、若き日のアバドの演奏の方に魅力を感じてしまうのだが、これは、好みの分かれるところだろう。ちなみに、この新盤は、「21世紀の名曲名盤」(2004年音楽之友社)の同曲(ラヴェル編)中、第2位にランクされている。
併録されているのが、奇才ウゴルスキ演奏のピアノ版だ。このピアノ版は、リスト編のベートーヴェンの交響曲のピアノ版のような下手物的な作品と異なり、本来は、こちらがムソルグスキーの正統的な作品なのだが、オーケストレーションの達人ラヴェル編の管弦楽版の絢爛豪華な音色に慣れてしまった耳にとっては、単色のピアノ版は、いかにも物足りなく感じてしまう。ただし、演奏自体は、「21世紀の名曲名盤」の同曲(ピアノ版)中、第5位にランクされている名演奏である。