神様 (中公文庫)
有り得ない状況と出来事が淡々と綴られていく不思議な日常風景に、ほんわかさせられる短編集です。自宅や通勤途中でじっくり読みこむというよりは、旅先のプールサイドや公園などで期待せずさらっと読みたい本。ほんわかだけでなく、読後ちょっと考えてしまう引っかかりがあるのも、そんな時間に読みたい理由の1つです。解説にもある通り「夢」を見たような読感。
センセイの鞄 [DVD]
ではなく、「恋愛に歳は関係ありません!}と、つきこさん。「・・その反対だったら?」と、先生69才。携帯電話を持たされてしまう先生。なかなか目的が達せられないふたり。随所にあったかい笑いがちりばめられ、観て得する感じな舞台です。細かいお楽しみはご覧になって下さい。最後まで久世音楽座?の出演者ご一同に満足まんぞくでした。
曾根崎心中
「曾根崎心中」と言う演題は知っており、「お初徳兵衛」の主人公の名前も知っています。でも、内容は全く知りませんでした。人形浄瑠璃もTVで「道行」のシーンを見た記憶が僅かにあるだけです。
そんな状態でこの本を読んだ訳ですから、全く新しい小説を読んだ様な感覚です。
確かに、近松門左衛門の「人情もの」は、映画で「天の網島」を見たりしており、その雰囲気は理解しているつもりです。
この本を読み進むうちに感じたのは、浄瑠璃ではここまで主人公「お初」の心情を表現できないだろうなと言う思いでした。
浄瑠璃の場合であれば、それを見る観衆の受け止め方にそれは委ねられています。
でもこの本では、「お初」の気持ちの動きを中心にストーリーが展開しますので、それが実によく伝わってきます。
「角田光代」の受け止めた「お初」の心情だと言ってしまえばそれまでですが、私は少なくとも非常に良く理解出来ました。
あの時代の遊女の気持ち。閉じ込められた世界でしか生きられない女性の切ない気持ちがよく理解できます。
閉ざされた世界に住む女性だからこそ、その「夢」は外の世界であり、そこへ誘ってくれる男性だったのでしょう。
人魂が誘う曾根崎の森への「道行」は、それしかない彼女たちの終着点として受け止めざるを得ません。
悲しい物語である筈なのですが、そう感じさせない「明るさ」があるのは、死んでゆく二人にとっては「夢の世界」への「道行」以外の何物でもないからでしょう。
こうした形で、江戸の文学を改めて知ることが出来、楽しい一時でした。
神様 2011
大好きな作品だった「神様」。そこに「あの日」以後が追補された。
この2011年版が、「あの日」以前に記されていたら、それは、超現実的な日常を描く、川上さんにふさわしい作品として、普通に読めていただろう。
だが、「あの日」を体験してしまった我々は、2011年版を現実として読む。昔から、川上さんが描いていたような、超現実の世界が、「あの日」以来、日常となってしまった異常を、まざまざと感じてしまう。これが現実の日本なのだ。
そこのとを、2011年版は伝えてくる。
累積被曝線量を気にして生きる、くまと、わたし。二人と同じように、こんな悪夢のような日常を過ごさねばならなくなった我々。
現実には、放射能被害の予見は「あの日」以来、過少に広報されるようになった。
原発事故が起きるまで、人体への影響が一定程度、確実に起きることが学問的に示されていたにも拘わらず、事故後は、「そういう未来は見ないでおこう」「補償額が莫大になるので、積極的に知らせないでおこう」とする、楽観的な空想を、我々は押し付けられるようになった。「神様」きどりの政府や電力会社によって。
現実の方が、小説よりも空想的な。とても喜べない現実が、今我々が生きている日本で起きているわけだ。
川上さんは、作家の立場で、強いメッセージを伝えるために、2011年版を追補したのだろう。超現実を描いてきた作家が、初めて描く、現実の日本。祖国日本に対する、作家のメッセージの重さを受け止めねばならないのが、この2011年版だと思う。
孤独のグルメ (扶桑社文庫)
モノを食べる時にはね、誰にも邪魔されず
自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ
独りで静かで豊かで…
このセリフ!まさに期待通りの久住昌之。
私は「芸能グルメストーカー」から流れ込むようにこの作品に触れた口なのですが、
06年10月時点で実に第14版、作品の息の長さが伺えます。
「ダンドリくん」「かっこいいスキヤキ」等、日常性の中に潜むおかしみを
ダンディズムを交えて語ってきた久住昌之氏と、
狩撫麻礼・メビウス・夢枕獏など錚々たる面々の原作を手がけてきた
職人・谷口ジロー氏の(一部漫画好きにとっての)夢の邂逅。
明確なオチやストーリーなどはありません。
盛り上がるでもなく、しかし決して退屈にもならず、
久住氏の重箱の隅を突くようなこだわりと谷口氏の超精密な絵でもって流れていきます。
それがもう、どうしようもなく、いい。こんな贅沢な漫画もそうそうありません。
ただし、「一家に一冊」という類の本ではないですね。
男がひっそりと独りで読むような、ある種の隠れ家的愉しさに満ちています。
男の本棚に、静かに一冊。