チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
不思議な才能だ。あえてゆっくり弾いて「どう?」と試されているような錯覚に陥る。しかもその演奏方法は彼女なりの裏付けがあって、1回聴くたびに、本当は何が言いたかったのだろう、と考えられさせるものなのだ。すべての演奏法があらゆる先達のバイオリニストたちによって試みられ、もう新しいことは何も残っていないと考えられていた21世紀の今、ヤンセンの問いかける意味は新しい。こういう試行がないとクラシックは伝統芸能として消えていく運命にある。シュタットフェルトのゴールドベルクを評価する人向け、ではある。
ヴィヴァルディ:協奏曲集
通常この曲は弦楽オーケストラで演奏されますが、この演奏では1人1パートで構成されています。
構成は、ソロ,1stバイオリン,2ndバイオリン,ビオラ,チェロ,コントラバス,テオルボ,オルガン&ハープシコードの8人編成です。
1人1パートの構成で録音されたこの演奏は、音量変化などダイナミクスに対して柔軟であり、即興性があります。そしてアンサンブルにとても透明感があり、非常に美しい演奏になっています。
四季以外の曲が入っていないのが惜しいですが、綺麗系の古楽解釈が好きな人なら一聴の価値ありだと思います。
バッハ:インヴェンションとパルティータ
この世で一番多くトランスクリプションされている作曲家は、バッハ・・・と断言してもいいでしょうね? 極めて個性的で完成度が高いにもかかわらず、様々な編曲者の編曲を受け容れて新しい魅力をあらわにするバッハの曲はなんて不思議なのだろう、とかねがね思っていましたが、また新たな魅力をもったトランスクリプションが出てきました。インヴェンションは、他のバッハのキーボードの曲に比べれば、それほど好きではなかったのですが、このトランスクリプションを聴いてこんなにいい曲だったのかと驚いています。バイオリンとビオラとチェロの音が実に美しく絡み合って、何度聴いても飽きません。先日も平均律のオルガン版(奏者LOUIS THIRY)を聴いて、耳からうろこが落ちたとも言うべきポリフォニーの魅力に陶酔したばかりなのに、またか、と驚く他ありません。バッハは汲めども尽きぬ泉で、時空を超えて我々の心を潤してくれていると思います。それと、ジャンセンの音は清潔感に溢れた美しい音ですね。有名なパルティータなど、これまで聴いてきた演奏は、名演ではあってもみなどこか苦しげなところ、無理をしているなと感じさせるところがあり(難曲なので当然かもしれませんが)、聴いていて苦しくなってくるのが常だったのですが、ジャンセンの演奏は実に自然で、楽々と呼吸をしているような感じがしてとても心地よいですね。どんどんバッハの録音をして欲しいと思います。