白夜を旅する人々 (新潮文庫)
三浦哲郎という作家に興味を持ち、ぶちあたったこの本は、当時中学生だったわたしにはあまりにも重い命題を突きつけたものでした。家族とは自分にとって何なのだろう。人生のどこかで必ずめぐり逢う本として、とても考えさせられるものがありました。
先天性の色素を持たない体質を背負った姉妹。今の時代なら珍しいとはいえ、そのことで家族まで縛られることはないのですが、あの時代における地域の閉鎖性が次第に家族を追い詰めていくのです。家族というものは、支えにもなってくれるけれど、うっとうしく、それでも自分の存在価値はそこにあるわけで、つねにデリケートにときに乱暴に自分に降りかかる災難の火の粉のようなものであり、心にからみつく鎖であるということを、三浦哲郎はまるでわが身を削るかのように教えてくれたのでした。
のちに起こる、あまりに衝撃的な悲しい現実を三浦少年は受け止めていくしかなかったのです。ただ一つの救いは、三浦少年がその現実から目をそらさずに、自伝的物語として言葉で紡ぎ上げていったことで自分の中の家族に決別していくことが出来たことなのかもしれません。
忍ぶ川 (新潮文庫)
なんといっても表題作「忍ぶ川」。
「忍ぶ川」とは、「志乃」が働いていた料亭の名前であり、主人公の「私」が初めて志乃と出会った場所です。
家族のことで苦労した二人が結ばれる話、と言ってしまえば簡単ですが、なんといっても結婚式の描写は涙なくしては読めません。
日常生活のことは忘れて、どうぞ静かなところで一人、落ち着いて読んでください。