泥鰌庵閑話傑作選 (ちくま文庫)
寺島町奇譚の陰であまり知名度は高くありませんが、滝田ゆうの隠れた名作のひとつ。昭和46年〜54年まで小説現代に連載されていました。
閑話(つれづればなし)なので、特に決まったテーマはないのですが、基本的には酒にまつわる話がほとんどというところです。
始めのうちは、まだ落ち着きがあり、抒情的な名品が多いのですが、後半では「飲み方が荒れて(ちくま文庫版下巻の嵐山光三郎氏の解説)」、刹那的かつ自堕落な飲み方を延々と見せつけられることになり、「寺島町」のように広く世間に受け入れられるものにはならなかったようです。
しかし、これもまた滝田ゆうにとっての抒情なのでしょう。
寺島町奇譚 (ちくま文庫)
滝田ゆうの代表作といわれています。
ボリュームもありますが、敷居が低いので誰でも楽しめるのではないでしょうか?(とはいえちょっと色っぽいシーンもあるので、中高生以上かな?)
戦中の玉の井の人々の生活を独特のユーモアを交えて描いています。
単にノスタルジックなものとはちょっと違っていて、そこで描かれる人々の生活の活写は解説で吉行淳之介氏がつげ義春と並べて指摘しているようにまさに文学的な趣があります。
とはいえ、主人公はキヨシという子供なので、自分に重ね合わせて読むことができますし、たぶん今の時代と照らし合わせてもかなり重なるところはありそうな気がしています。
この普遍性は優れた作品に共通のもので、悲喜こもごもが読むものの心にそっと入ってきて胸に残ります。
最後の玉の井が空襲で焼けてしまうあっけなさも、まさにドラマチック。作り事ではないのですが、氏独特のタッチで描かれるともう「寺島町奇譚」という作品として完結するファンタジックな世界以外の何者でもないというか、他に変えがたいものがあると思います。
あったかいタッチですが、丁寧に描かれた絵は文庫じゃなくてもっと大判で楽しみたくなりますね。
滝田ゆう落語劇場 (ちくま文庫)
落語を漫画にした本です。落語の話の世界が十分楽しめる一冊になっています。収録されている噺の数も多く、落語初心者の入門書として、最適なのではないでしょうか。読み応えがあって、お得な一冊だと思います。