ロストロポーヴィチ & リヒテル (EMIクラシック・アーカイヴ) [DVD]
この二人による演奏が素晴らしいことに関しては、言うことなし。
荒々しくも情熱的な演奏シーンはスリリングで、見ていても凄みがあります。
しかし、映像ならではのポイントは『東側から凄い奴らが来た!』という雰囲気が、会場内に漂っているのが分かること。
古代ローマの闘技場のような設計のホールで聴衆に文字通り360度囲まれて演奏する様子は、ちょっと見世物的で滑稽だったり
します。(こういうホールが向こうではよくあるのかもしれませんが。)また、ステージに入ってきてちょいと会釈しただけで
座ろうとしたロストロポーヴィチをリヒテルが軽く窘めるところは、親戚の家に行って他人行儀になってる兄貴と困った弟みたいで
可笑しかったですね。
しかし、演奏が終わった後に万雷の拍手で会場が沸く様子は、冷戦時代でも芸術家を通しての文化交流によって、互いに認め合う
可能性があったことを示唆しています。『グレン・グールド/ロシアの旅』でもそうですが、芸術の真価が如実に表れていて感動的です。
ベートーヴェン:トリプル・コンチェルト
既に多くの人が決定盤の評価を下しているCDに敢えて異論を唱えるつもりもないので、演奏自体については触れないことにして、従来盤と今回のHQCDの音質の相違点だけを述べることにする。私が比較したのは98年のARTリマスター盤で、先ずこれまでのHQCDリニューアル盤に共通している点は、音量自体のボリュームがアップしていることだ。これはおそらく24bitリマスタリングした時の副産物と言えるだろう。ただ音量の違いだけならアンプのボリュームを上げれば、同じように再生されるかというと、幸いにもそうはならなかった。
どちらも69年の収録で、この頃のEMIの音質の弱点は特にベートーヴェンの方に出ているが、このCDではそれがある程度改善されている。以前はオーケストラのパートが3人のソリストに対して若干後退してひと連なりに聞こえていたが、全体的に響きが良くなり、各楽器間の音の独立性もより明瞭になっている。結果的にカラヤンが苦心したスケールの大きなオーケストレーションのバランスのテクニックが際立つことになった。一方ブラームスは同じ年の録音だが、会場による音響の違いからか前者よりオリジナル・マスターの出来が良く、あらはそれほど目立たないが高音、低音共に伸びが良くなっているようだ。ARTリマスター盤では小ぢんまりとまとまり過ぎていたように思える。
尚このCDは既にリイシューになり、2009年に初めてHQCD化された時には2600円だったが、私は翌年の秋に1200円で買った。大幅な低価格化は評価できるが、最初に購入した人にとっては、わずか一年余りで半額以下になると、納得がいかない部分もあるだろう。
オイストラフ コンチェルト・コンプリート [DVD]
4000円以下で曲目も多く、お買い得と思って購入しました。
予想通りというか、古い映像を単につなげただけで手のこった編集はありません。
また音質も決して満足できるものではなく、撮影のカメラ台数も少ないため、カメラワークはほとんど固定です。きれいな映像作品を期待して購入しては後悔するでしょう。
しかし、オイストラフのような歴史的な名手を動画でみられるというのは、ヴァイオリンファンにとっては、この上ない喜びです。曲目の中ではとくに、ブラームスとショスタコーヴィチの協奏曲がすばらしい出来です。ライブのため、音程をはずしたり発音ミスがあったりはときどきみられますが、そのようなことは非常に小さなことであって、全体の曲作り、曲の解釈など、非常に感心させられます。最近の演奏家たちの小さくきれいにまとめる演奏とはまったく違う「迫力」を体感できます。非常にお買い得で、個人的にはかなりお薦めいたします。
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲 [DVD]
ようやくDVDになってくれた、という感じの作品。録音場所となった境界の響きも素晴らしく、演奏の内容ももちろんすばらしくて、ズッシリとした手ごたえを感じられる内容になっています。数あるバッハの無伴奏チェロの録音の中でもトップクラスの内容では。そしてそれがこうして映像で見られることを幸福に感じます。
ロストロ自身による解説も(まあ常に見るものではないかもしれませんが)、とてもいい手引きになってくれます。
このDVDを頼んだ後で、同作についてLD時代から映像と音のずれが指摘されていたことを知りました。LDは未見ですが、このDVDに関して言うと、左手の運指を見る限り、私にはズレは感じられず、何の問題もなく楽しめました。
バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲
阪神大震災の直後に、小澤征爾指揮のNHK交響楽団とロストロポーヴィチが共演した演奏会が有った。その演奏会のアンコールで、ロストロポーヴィチは、聴衆に拍手をせず、祈って下さいと言って、震災の犠牲者の為に、バッハの無伴奏組曲のサラバンドを弾いた。あのサラバンドは忘れられない。ロストロポーヴィチが残したこのバッハを日本人は大切に聴き続けるべきだろう。−−バッハ無伴奏チェロ組曲の最高の演奏である。
(西岡昌紀・内科医/阪神大震災から17年目の日に)