望郷のマズルカ―激動の中国現代史を生きたピアニストフー・ツォン
1955年のショパンコンクールでアジア人として初めて3位入賞した中国人ピアニスト、フー・ツォンの波乱に満ちた伝記です。でもそれだけではなく、音楽家たちにとっての中国現代史でもあります。知識人や音楽家が文化大革命によってどのような影響を受けたのか。またそこを乗り越えたピアニストたちから、今の中国のリ・ユンディらの人気を中心とするピアノブームへとつながっていく流れが、よくわかりました。
フー・ツォンの教養の基盤を育んだ父親は、フー・レイという翻訳家・評論家なのですが、この人の教育ぶりがすごい。学校不信からか息子ツォンを11歳で退学させ、14歳まで自分で文学や歴史を教えたんです。教えるといっても父が解説するのではなく、まず子ども自身に準備させて説明させる。「自分の頭で考える」ことを徹底したんですね。しかもフー家の居間は、医師や法律家や作家など知識人たちが、毎晩のように集まり議論白熱。それを覗いていた子どもたち。ああ教養ってこうして育まれ伝えられるんだ、知識人というのはこういう人たちなんだなあと感じ入りました。
付録のCDにはショパンやモーツァルトやドビュッシーなど13曲も入っています。とくにショパンのピアノ協奏曲第2番第2楽章は、優美さにぐっと引きこまれました。フー・ツォンのCDは今ほとんど入手不可能みたいなので、貴重です。この充実した内容にCDがついて2,000円とは、安すぎるくらいなのでは?
音楽家の名言 あなたの演奏を変える127のメッセージ
「音楽家の名言2」と一緒に購入しました。2冊とも美しいお花の表紙で、中の演奏家達の名言にも心打たれます。音楽を続けて行く方や、コンサートのプレゼントに“枯れない花束”として最適だと思います。中古で申し込みましたが、廉価なのに新品同様でした!
モーツァルト:ピアノ協奏曲全集
さて2006年はモーツァルト生誕250年ということで、各レコード会社も様々な企画ものをリリースした。概して良心的な企画が多かったし、個人的にもいろいろ楽しんだ。その一環で、いわゆるハコモノといえる全集ものが一気に値を下げて発売するものも目に付いたが、中でもこの88年レコード・アカデミー賞を受賞したアシュケナージによるピアノ協奏曲の全集など、素晴らしいものである。実際これだけ値段が下がると、再販価格維持制度などどうなんだろう?と思ってしまうが、まあいいのでしょう。大丈夫、大丈夫。
1977年から86年にかけての録音は距離感、スケールとも適切で好ましい。その第2楽章が映画「短くも美しく燃え」に用いられて有名な第21番は理想的名演で、典雅な両端楽章の雰囲気も満点。第18番と第20番は録音が優秀。ピアノの低音が豊かに響き、木管楽器の鳴りもたいへん良好。このソフトな語り口は決して浅い表現ではない。25番ではややアグレッシヴに行き過ぎた感もあるが、24番のニュアンスを含んだ弦のさざなみは美しさの限り。第26番は音の輪郭が明瞭でスキッと仕上がっている。第23番と第27番は入念なピアノの音色が美しい限り。また2台および3台のピアノのための協奏曲では、同じ指揮者&ピアニストとして活躍する友人バレンボイムとの競演が楽しい。第12番、第15番、第17番なども曲の魅力を豊かに表現している。他も王道の演奏ですべてに過不足無い安心感がある。ピアノの冴えと歌。管弦楽の気品。いずれもレベルが高い。
モーツァルト : 2台のピアノのためのソナタ・ニ長調
この曲の魅力を余すところなく伝える好演奏。二人の息もぴったりと合っている。何よりも、二人から作り出された音の軽快感がすばらしい。
録音的には少々古くなったが、そんなことは全く気にならない。暖かみのある有機的な音が心を和ませる。
Piano Sonatas
新聞でこのアルバムについての記事を読み、youtubeで演奏を聴いた。
その美音と、音楽の広がり、深さに驚いた。
ハイドンのソナタ集は、グールド、ポゴレリッチ、ホロヴィッツのものを持っている。
グールドのそれは、色々な意味でグールド・ミュージックというしかないものだが、
ポゴレリッチのハイドンは、スカルラッティの演奏でも聞かれた美点が生きていて、良盤。
このフー・ツォンの演奏は、それらとはまったく異なる場所で生まれている。
最初に収録されている31番の第1楽章は堂々としていて魅力的だが、
第2楽章のアダージョの深い味わいは、雲間を揺蕩っているよう。
宙にふわっと浮いているのではなく、木漏れ陽の間を歩いている時のように、
陰影と色彩が交差していく。34番から始まる2枚目も素晴らしい。
何度くり返し聴いても、新鮮で、親密。解釈や技巧を超えて、音楽が鳴っている。
リヒテルやポリーニなど、西洋の音楽家たちとはまったく違うピアニズムがここにある。
録音はロンドンの教会でなされているが、マイクセッティングがオフで(ピアノから離れている)、
その場の響きをひろっている。その豊かな残響も魅力のひとつ。
音楽との一体感、ドライブ感、美音。一級品のアート作品が持つ特徴を供えた作品。