最高裁の暗闘 少数意見が時代を切り開く (朝日新書)
この本のテーマは副題の「少数意見が時代を切り開く」で、
少数意見がやがて多数意見に変わっていく様を描いています。
ビジネス書的だとしたら、副題にすべきだったでしょう
(副題がタイトルだったほうが売れたでしょう)。
最高裁の判断が時代によってかわっていくことと、米最高裁の
原意主義のスカリア判事の考え方を紹介して、その可能性について示唆を与えてくれます。
こういった最高裁判事といった当事者が内幕を話してくれるのは、オーラルヒストリーの学者か、朝日新聞の記者だけだと
いうのが現実なので、朝日新聞の記者はこれからも意欲的に内幕物を出していただきたい。
最高裁の違憲判決 「伝家の宝刀」をなぜ抜かないのか (光文社新書)
本書は、戦後すぐの最高裁発足時以降現在までの最高裁長官とその下での違憲判決に焦点を当てて解説した本です。
「第1章 政治からの逃避 〜政治に踏み込まず、の家訓を宣言〜」(1947年〜)、「第2章 北風と太陽 〜公人に厳しく、私人には優しく〜」(1969年〜)、「第3章 審理方法に変化の兆し 〜「規制目的二分論」に疑問符?〜」(1982年〜)、「第4章 『救済の府』の覚醒 〜人権保障の砦に〜」(1997年〜)の4つの時代に分けて、最高裁の違憲審査がどのように変遷してきたかを時代順に記載しています。
そして、「補章 1票の格差を追う」では国会の定数訴訟の流れを解説し、「終章 岐路に立つ最高裁」では違憲審査がこれまで決して多くなかったことを踏まえて「憲法裁判所」設置の主張や現在の憲法の枠組み内での最高裁の改革案を示しています。
本書は違憲判決事件に焦点を当てていますが、これらの事件は(特に昔のものは)あまりにも有名であり、法学部卒でない私でも「憲法判例100選」のような本でかつて学習したことがあるような重要判例ばかりです。本書はそれぞれの事件をていねいに(一般の人でもわかるように)解説しています。
紙幅の関係からか、違憲判決の記述が中心であり、合憲となった判例の解説が手薄なので、違憲審査全体を正確に見渡すことはできていないと思いますが、これだけの紙幅でここまでわかりやすく解説したのは素晴らしいと思います。
また、本書では、最高裁長官の名前をとって「○○コート」という表現で、その時代を表していますが、「なるほど、長官の色合いが出ている」という時代と「そうでもない」と思う時期があります。しかし、私はこれまであまり長官と判決の関係に注意を払ってこなかったので、新たな視点を得たように思いました。
違憲審査について概観できる、とても真面目に書かれた良心的な本と思います。
特に、違憲審査について全体をコンパクトに概観したい一般の人や、これから憲法を学ぶ人にとっては一読の価値がある本と思います。
最高裁回想録 --学者判事の七年半
行政法の大御所(東北大教授)から最高裁判事に転進された藤田宙靖氏の回顧録であるが、実に興味深く、一気に読み通した。少しでも法律をかじった人あるいは日本の司法制度に関心がある人には是非ともご一読をお勧めしたい。
特に最高裁に関し例えば以下のような興味あるいは疑問があれば本書は最適な手がかりとなろう。
1. 組織はどのように機能しているか?(どのように案件をさばいているか?)
2. 裁判官はどのような日常を送っているのか?忙しいのか?
3. 違憲判決を出すのに保守的ともいわれるが、どうなのか?
4. 調査官裁判ともいわれることもあるが、実態は?
5. 最高裁としての判断・判決の方向性に変化は出てくるものなのか?、きっかけは?
6. 判決を下す際の基準・考え方はどのようなものか?裁判官と学者のアプローチの違いはあるのか?
7. 個別意見はどのようにして出てくるのか? 等々
いずれにしても本書を通して、“席の冷める暇の無い”ほど忙しい最高裁判事が黙々とその職務に取り組んでいる姿がよくわかる。
藤田氏は自身の仕事振りについては奥様の表現を借り“始めチョロチョロ中パッパ。残りの三年グウタラぺー”と謙遜されているが、実際は極めて精力的に職務に取り組まれたようである。
そしていくつかの重要判決についての考え方(個人意見も添付されている)のみならず、日常難しい判断を迫られるキーポイント(例えば最高裁にとっての証拠評価の問題)についても同氏の語り口には澱みがなくクリヤーであり、読んでいて全く違和感がない。大変説得力に富み、合理的な方であるとお見受けした。
このような形で裁判官としての仕事を振り返るには守秘義務と説明責任の衝突という難しさがあるようだが、退官後短時間で本書を公刊された英断に敬意を表したい。