タイスの瞑想曲~ヴァイオリン名曲集
廃盤になって久しかったこのCDの廉価盤化での復活を歓迎したい。スークが60歳を迎えた1990年のセッションで、ピアノ伴奏はヨゼフ・ハーラ。彼らはこのほかにも幾つかのアンコール・ピースを録音していて、そちらの復刻も望まれるが、何と言ってもスークの愛用する名器ストラディヴァリの明るく甘美な音色をフルに活かした歌心に溢れる表現が最大の聴き所だ。それぞれの曲の規模が小さいだけに、ヴァイオリンの魅力のエッセンスが堪能できる一枚。
スークはかつてエルマンやグリュミオーが誇っていたような、聴けば即座にそれと判る彼独自の音色を持っている。彼らのように磨き上げられた音色を武器にするヴァイオリン奏者は、いきおい曲の解釈自体も耽美的な傾向になりがちだが、スークには特有の現代的に洗練されたセンスがあって、必要以上にポルタメントをかけたり、曲想をことさら大袈裟に仕上げたりすることがないのは好ましい。また彼の演奏には常に人間的な温かみが感じられ、音楽の喜びをダイレクトに伝えてくれる。抑制の効いたハーラのきめ細かい伴奏もソロを引き立てた好サポートだ。
このCDに収められた20曲の小品の多くは、ヴァイオリンとピアノ伴奏の為にアレンジされた編曲物で、ヴァイオリニストの為のスタンダード・ナンバーといったところだが、意外にも一流奏者の新しい録音が少ない。確かに協奏曲やソナタ、あるいは無伴奏などの大曲に取り組まなければならない若手にとって、こうしたきわもの的な音楽は録音の対象外になってしまうのだろう。若くしてこのジャンルに積極的に手を染めたのは、サービス精神旺盛なパールマンくらいだが、大家の演奏で聴く小品はとりわけ深い味わいがあり、リラックスのひと時に心を和ませてくれる。