後宮小説 (新潮文庫)
「雲のように風のように」の原作です。
原作のほうが少しシビアで残酷なところもありますが、アニメよりも原作のほうが銀河やコリュ−ン、その他の登場人物の細かな性格やその時々の感情が伝わってくるかも。
うんちくは多いですが、それゆえに史実だと読者に思わせるぐらい現実性の高いファンタジー小説で、他の著者の作品では味わえない独特な酒見ワールドを感じることができると思います。
ストーリーは『中華風シンデレラストーリー』『ラストエンペラー』『三国志』。
切ないけど、面白いです。
孔子伝 (中公文庫BIBLIO)
その言葉が数多残っているとは言うものの、あくまでも誰かからの言い伝えで、自らの著作を持たず、その実像がなかなかわからない孔子。
白川先生は、非常に論理的な筆致で、孔子の出自やその思想の背景、歴史的な役割などを描き出している。
「論語」に関する解説も、いわゆる教訓としてではなく、どのように形作られてきたのか、歴史的な視点から考察している。やはり、誰がどのような境遇で発言したのかが実感できると、言葉の重みが一層伝わってくる。
中でも特に気に入ったのが、「儒教の批判者」の章である。荘周(荘子)の考えはいわゆる老荘思想といわれ、一般的には儒教のカウンターカルチャーと位置づけられているが、白川先生は、むしろ孔子の最大の理解者であった顔回の流れを汲む者だと仮説を立てている。荘周が攻撃したのは堕落した儒教であって、儒教の真の姿への回帰を目論んでいたのだと主張している。
確かに、儒教自身は封建主義の精神的な基盤として長く君臨してきたが、孔子の辿った生涯を考えると、決して体制維持のために考え出された思想ではないはずである。むしろ荘周の立場に近かったかもしれない。
韓非子にしてもそうであるが、古代中国においては思想が対立しているというよりも、種々の思想が互いに影響を与え合って存在している。それが中国思想のスケールの大きさに繋がっていると思うのであるが、白川先生はその辺りを描き出すのが非常にうまい。
分解 (ちくま文庫)
雑誌掲載後、単行本化されていなかった中短篇5作を含む8作が収録された文庫オリジナル編集作品。
【収録作品と出典】*が初収録作
ピュタゴラスの旅《「ピュタゴラスの旅」91年講談社刊》
エピクテトス《同上》
*分解《「文學界」97年6月号》
*音神不通《「オール讀物」98年5月号掲載》
*この場所になにが《「オール讀物」98年8月号掲載》
*泥つきのお姫様《「オール讀物」98年10月号掲載》
*ふきつ《「小説すばる」99年3月号掲載》
童貞《「童貞」95年講談社刊》
初収録作のうち、色々な意味で印象に残ったのは「分解」。
この作品は、学者と思しき先生が弟子に講義する形で話が進んでいく。先生の専門は、あらゆるものを分解すること。分解学か?。分解されるのは、銃、人体、人間の意識、そして○○。
講義の方法は実際に分解をするという実技形式なのだが、デビュー作「後宮小説」がそうであったのと同じく、ホラ話があたかも事実であるかのように、もっともらしく語られる酒見賢一らしい作品。人体も分解されるが、オドロオドロシイ描写はなく、学問的?に淡々と分解作業が進んでいくのがかえって怖い。
とにかく70頁のほとんど全てが分解作業の描写に費やされている。特に「意識」を分解していく描写は圧巻。さすが酒見賢一と言いたいのだが、この延々と続く分解の描写がけっこう退屈だった。
最後に分解されようとする○○がオチになっているのだが、たった3頁しかないこのオチが見事。それまでの退屈が吹っ飛んだ。筒井康隆の実験的小説「残像に口紅を」を思い出した。
延々と続く分解の描写をもっとコンパクトにするともっと読みやすくもっといい作品になったように感じた。もしかしたら肩に力が入りすぎていたのかもしれない。
この作品に印象に残る文章があった。ちょっと長いが引用してみる。
〈小説の機能は読む人の人身に働きかけ、ある種の意識異常を引き起こすことにある。意識異常によって出現した世界が、そこが豊かな世界であれ、地獄的な世界であれ、薄汚い世界であれ、薄汚さのない世界であれ、読者を遠い場所へ連れて行く。小説を使って人間を書こうなどという試みは無意味なことだ。小説は不完全な固定か、限りなく完全に近い固定か、その間を揺れ動く意識に過ぎぬ。人間を書くことなど目的ですらない。小説は人を遠くに連れて行くためにあるものだ。〉
これは登場人物の一人が語ったものだが、酒見賢一が自身の小説に対する考えを書いた文章であるのは明らかだ。もしかしたら、このことが言いたいが為にこの作品を書いたのではと思ったりもした。
さらにこの文章は、彼の書く小説の特長が見事に表現された、現在まで書かれ続けた酒見作品全体に対するある種の解説文にもなっている。この文章を読めただけでもこの作品集を手にとってよかったと思う。
雲のように風のように [DVD]
小学生の頃にTVの深夜映画でやってたのを見て、一気に虜になった覚えが。
その頃は原作である「後宮小説」の存在も知らず、ネットもなかった頃なので、録ったビデオだけを繰り返し見ていた記憶がある。
それがこうやって簡単に手に入るんだから全くいい時代になったもんだ。
それはさておき。
中国をモデルにしたファンタジーアニメだが、中心になるのが「後宮」という変わった設定。
そこで教わるのは良き皇后になるためのアレコレ・・・という、やり方によっては猥雑になりがちな素材を、
明るく元気なヒロインを中心に据えることで時に面白く、時に爽快に描いているアニメ。
しかも時代が時代だけに、ただのシンデレラハッピーストーリーで終わらないところがミソ。
EDに流れるどこか物寂しい主題歌が哀愁を誘い、余韻が残る。
あまり知られていないが、隠れた名作であることは間違いない。
泣き虫弱虫諸葛孔明〈第2部〉 (文春文庫)
否、本当に待ちに待ちました! 今まで何種類かの『三国志』を読んでいますが…、何という『三国志』!正に抱腹絶倒。悪キャラの諸葛孔明がたまらなく魅力的です。私は『三国志』中最も好きな人物が孔明なのですが、この孔明も違った意味で魅力的。まるでいたずらっ子そのもの。思わず酒見賢一さんの頭の中を覗いてみたくなりました。こんな面白い作品を書かれる作家の頭とは如何なる宇宙を潜ませているのか?様々な方がそれぞれの群像劇を描かれていて、それぞれに楽しく拝見させて頂いていましたが、未だかつてコレほど面白い内容はなかったかも…?中国の史実は正に勝者が歴史を作るという言葉通りの如くですが、そんな史実など正直クソくらえ(下品な言葉を使ってしまった…ゴメンナサイ?)と思わせてしまう面白さです。内容の分析のせいか、一場が長いのでまだ孔明の本格的な活躍にはほど遠いのですが、いっそ何時までもこの小説を楽しみたいのでどんどんちんたらと解説を(ツッコミか?)増やして長く続けて頂きたいとすら思ってしまいます。五丈原の孔明の活躍ぶりが今から楽しみです!「死せる孔明、生ける仲達を走らす」の場面はどんな策略になるのか?!今までの史実がどのようなパラレルワールドとなるのか?胸がワクワクしてしまいます。 酒見賢一さん、出来るだけ早く読ませて下さいね!我が儘なお願いなのは十分承知なのですが…?よろしくお願いします!