史記武帝紀 5
武帝は、英明な皇帝から蒙昧に近い独裁者となり、死を恐れおびえるようになる。
蘇武は、匈奴に囚われて北方に追放され、過酷な極寒の地で工夫を重ねて生き延びる。
李陵は、5千対8万の圧倒的な大差の戦に敗れて匈奴に投降するが、厚遇される。
司馬遷は、李陵を弁護して処罰されるが、公的時間には皇帝の身近で記録する役職に就き、
私的時間には、父の残した歴史書を書き継ぐこととなる。
とうとうと流れる時に抗い、力強く生き抜く男たちを雄渾な筆致で描ききる。
司馬遷―史記の世界 (講談社文芸文庫)
130巻、526,500字に及ぶ膨大な『史記』を著したのは司馬遷であるが、この著作を無味乾燥な歴史書ではなく、生き生きとした迫力ある人間ドラマに仕立て上げたのは、司馬遷の屈折した人生観と激しい怨念であった。
漢の武将、李陵が匈奴の大軍と戦って捕虜となったとき、司馬遷が独り李陵を弁護したことが武帝の怒りを買い、宮刑(去勢)に処せられてしまうのである。この屈辱をバネに、その憤りを著述にぶつけ、遂に完成させたのが『史記』であった。
この経緯は、中島 敦の小説『李陵』(中島 敦著、新潮文庫。ほかに『山月記』等3編が収められている)に独特の文体で格調高く描かれている。
「司馬遷は生き恥さらした男である」という書き出しで始まる『司馬遷――史記の世界』(武田泰淳著、講談社文芸文庫)は、司馬遷という人物を理解し、『史記』の全体像を知るのに恰好の書である。
史記 全8巻セット (ちくま学芸文庫)
史記は有名な著作である。
しかし、大概の人は列伝しか見ないようだ。
史記を全て読むことが全ての人の人生に必要、というわけでは
ないが、列伝だけでも読んだ人であれば、是非、本紀・世家といった
他の部分も読んでほしい。
古く、中国や日本の知識人たちは全編読んだものと思う。
文明が進んできた(?)にもかかわらず、過去の人たちの
教養に現代人が達し得ないというのは、イビツな気がする
李陵・山月記 弟子・名人伝 (角川文庫)
中島には漢学の素養があり、文章中に難解な語句があるが、読み仮名が振ってある他、かなりの注釈と地図があり、私は1ヶ月以上の時間がかかったが、本書を読み切った。
「李陵」、「山月記」など全ての小説は昔の中国が舞台になっている。中国文化に関心のある人にはおもしろいだろう。現代の感覚からは異常なエピソードも書かれている。
最も良いと思ったのは、継続的な努力、切磋琢磨の重要性について訴える「山月記」。私は高校生の時に教科書で読んだことがあったが、再読の価値はあった。