沖で待つ (文春文庫)
読み終わっての感想は「つかみどころがない」ということ。
それがなんとも言えない味になっている。
主人公は、OLともキャリアウーマンともつかない、年齢的にも微妙なところにある女性。
なんとなく曖昧な存在で、それだけに逆にリアルである。
彼女のですます調の叙述体で、同期の「太っちゃん」との回想から、
現在に至るというのが基本的な進行。
非常に淡々として平凡に進んでいくのだが、案外内容は飛んでいる。
まず「死者が語る」ところ。
そしてその太っちゃんの死因もまた、突拍子もない。
が、この作品の中では、幽霊話も突拍子もない事故も、
淡々としてまるで当たり前のように書かれてしまう。
一見命が軽視されているようだが、そんなことはない。
太っちゃんの秘密、その核心の”ある物”に触れる主人公の手のひらに感じる、冷たい手ごたえ。
その緊張感だけは奇妙にリアルなのだ。
この不思議な味わいはなんだろうか、という心境がそのまま、
「人間の存在ってなんなんだろうな」というところにつながってゆく。
ひんやりと冷やされるような、ほっこりと暖められるような、
この曖昧さ、この不安さはなんだ。
作者がこれを狙って演出しているとすると、恐ろしい筆の持ち主なのかもしれないと思う。
でもそうなのか違うのか、まだわからない。
彼女の次回作もきっと読んでしまうのだろう。
ばかもの [DVD]
金子監督と言えば、個人的には何をおいても「ガメラ」だ(笑)。ロマンポルノから「ゴジラ」、ちょっとブーム系のホラーまで、
まさしく「職人監督」なのだと思うが、ガメラシリーズだけは別格だった。
劇中、ポルノ作品とガメラを併映している映画館が出てくるが、あれは明らかな楽屋落ちだ。
しかし、本作の素晴らしさは何だろう。
アルコール依存症や新興宗教、DVから愛欲関係まで、本来なら園子温監督が手掛けそうなテーマじゃないか(笑)。
でもそこに、崩れそうな最後の一線を守る「家族の絆」を描いたことが凄いのだと思う。
園監督だったら、家族も崩壊しちゃうからね(笑)。
成宮寛貴の堕ちっぷりは凄い気迫だったが、これ妻夫木もやりたかったんじゃないかなあ。
対する女性たちでは、内田有紀が相変わらず可愛く、また今回は艶っぽいところも担当していて、新たな一面を見せた。
それから中村ゆりも素晴らしい。彼女の目線には吸い込まれそうな魅力がある。「ララピポ」ではけっこう可哀そうな
役柄だったが、今回は本人も十分納得の芝居が出来たのではないか。
それから、犬の「ホシノ」が絶品だ(笑)。
落ちぶれた男(成宮)を迎えに行くシーンなど、あまりに上手くて中に人が入っているのかと思ったくらいだ。
高崎でロケが行われているので、ヤマダ電機もロケに協力している。これも珍しいことだ。
とにかく陰影鮮やかな作品であり、普段はそれっぽさをあまり感じさせない釘宮カメラマンが、今回は
篠田昇ばりの光の使い方で魅せてくれる。
暗いシーンが多いだけに、ラストの太陽&水の場面が最大限に活きたのだろう。
特典映像はメイキングと舞台挨拶が収録されている。
2010年公開作の中では上位に来る秀作だと思うので、ぜひ観て欲しい。星は5つです。
袋小路の男 (講談社文庫)
絲山秋子の小説にはステレオタイプな男女関係が一切出てこないから、良い意味で小説としての期待を裏切るし、セックスレスな現代(いま)を感じさせる。本作も、高校から20年近く、手をつないだことさえない小田切孝くんと大谷日向子さんの関係が綴られている。当初は大谷さんの一方的な憧れ、片思いってあたりと、セックスを抜き取ったメルヘンチックなその関係は、チッチとサリーすら思わせるほのぼのさである。セックスに縛られない男女関係というのが、これほどストレスのない、持続的な関係を生むのかという発見がある。小田切さんと大谷さんの、まさにone to oneの関係以外に、ほとんど他者が介在してこないという手法も、最近の人間関係が錯綜する小説の中にあってはかえって新鮮である。このシリーズ「袋小路の男」「小田切孝の言い分」はまだまだ読んでみたい。
独身の叔父と中学生の姪が文通でやりとりする「アーリオ オーリオ」も、ある意味、セックスの介在しない男女関係であり、これも読んでいて、ほのぼのと楽しい作品だった。
やわらかい生活 スペシャル・エディション [DVD]
カラオケは、蒲田行進曲。
花見は、池上本門寺。
子供は、タイヤ公園。
蒲田人の私にとって、
蒲田つながりで、楽しい。
マッタリムードも蒲田っポイ。
豊川の優しいダメ男も秀逸。
NYで親友が死に、
行き続ける事が目標。
あの世代は、バブルの天井に張り切って、社会に出て、
その後の混乱、価値観の変遷の中で、心身共、ボロボロが、多発した世代。
その、心象風景が、鮮やかな作品。