人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)
非常に大きなテーマを投げかけている本です。上中下の3巻構成でそのボリュームも可なりありますが、一気に読み終えてしまうほど読み入ってしまいます。読みながら、そして読み終えてからも「人間」とは一体何なのかということについて考えさせられました。人間らしく生きるとは一体どういう生き方なのか?人間と動物との違いは?正直に生きることは無意味なことなのか?等々幾つもの謎かけを与えられます。あと、本書を読んで私の中で大きく変わったことは「中国人の反日感情」の考え方です。最近の中国の反日行動等に政治的プロパガンダを感じていましたが、日本陸軍が中国大陸で行った侵略戦争の一部が本書には克明に記されています。我々が日中戦争のことを「過去のこと」と一言では片付けられない何かを見せられた思いがします。戦争がいかに人間を醜い動物に変えていくかが痛いほどわかりました。ぜひ、戦争を知らない我々の世代に本書を読んでもらいたい。そしてその中で人間らしく生きるという意味を考えてもらいたいと感じました。
戦争と人間 DVD-BOX (初回限定生産)
僕はこの映画は、日本の歴史映画、戦争映画の中でも素晴らしい一作だと思います。ロマンポルノ転換前の日活が山本薩夫監督を招聘して、オールスターキャストで製作した大作映画です。
昭和初期における日本の中国大陸への進出、侵略過程がよく分かります。恋愛あり、政治謀略あり、戦闘シーンありの優れた映画と思います。
今回待望のDVD化ですが、過去に発売されたビデオやLDと比較すると、特撮カットの明瞭化、未使用カットの使用など、若干の部分が再編集されており、また違った魅力と思います。
人間の條件〈下〉 (岩波現代文庫)
ソ連参戦で、戦車部隊が国境を越えて押し寄せる。明らかに戦力の劣る日本軍は敗走を余儀なくされ、兵士はつぎつぎと倒れてゆく。勝敗が決まると、中国人の多くも公然の敵となる。人民の味方と一部で期待されたソ連兵たちがもたらしたものは暴行や略奪などからなる幻滅であった。そのような中で、ソ連軍の捕虜収容所から脱走した主人公は、厳寒の満州を、愛する人に向け引いた直線に沿ってひたすらたどる・・・。
この作品が書かれた時代、社会主義諸国は、まだ、多くの人々に希望と夢を与えていた。しかし、今現在、ソ連を始め多くの社会主義国が偽社会主義国であったことが歴史により審判されている。この段階で本書を読むと、政治的な偏りから自由になったところで素直に読むことができ、よりいっそう根源的なところで戦争批判と人間の条件を考えることとが可能となる。その意味で、20世紀から21世紀に切り替わって、本書がきわめて現代的な書となったということができる。
人間の條件〈中〉 (岩波現代文庫)
軍隊で公然とふるわれる暴力に象徴される不条理に対し「人間」を対置して良心を貫く場合、何によりどころをおけばよいのか。器用とでも言える俊敏な判断と強靱な体力と気力による不屈さを最大限ふるって生き延びるだけでなく、善良な部下をも守りつづける主人公は、多くを失いつつも何とか軍隊の論理と「人間」をバランスし通せたかに見えた。
この巻では、泣く子も黙る関東軍の内実がいかに張り子の虎であったかを示しつつ、その中で人間が不条理に抗して人間として生き抜くことができるかどうかを追求する。その答えは、全3巻を通じて、結局、個の力は微力であることを示し、反戦しかあり得ないことを無言の内に示している。この巻は、それを野間宏「真空地帯」を凌駕する迫力をもって描いている、と思う。
人間の條件 DVD-BOX
学生時代、狭い池袋の人生座の深夜上演でむさぼるように鑑賞してから半世紀がたちました。梶の汚濁を許さない正義感と人間愛、それにしっかりと寄り添う美千子の健気さは、少しも色あせることなく心に迫ります。しかし原作を活字の形で読んだときと、このような映像として見た時とでは、梶の妥協を全く認めない姿がどうしても絵空事に見えてしまいます。それは鑑賞者の私が、あれ以後50年の人生で、いわゆる酸いも甘いも知ってしまったためなのか、それともあの時代に持っていた愛や義の心を、分厚い歳月の扉で覆ってしまったのかを考えさせられました。
読者の想像力を合わせて喚起しながら進む活字によるストリーの展開と、創造力の介入を許さない映像による物語の展開との、避けうることのできない乖離が気になったのです。
あの時代の重苦しい雰囲気や、どうしようもなく滅びへ向かう閉塞感の中で、それでもこんなに真摯に生きた人々がいたことを、そして同時にこんなに都合よく生きた大多数の俗物が存在していたことをもっと若い人たちに知ってもらうために、いつまでも引き継いでゆきたい作品だと思います。これはその意味で日本映画の金字塔の一つです。
梶と同じように、死んではならない、生きていてほしかった人々が、戦場となった異国の地の溝の中で死んでゆきました。惜しいことです。このような作品を鑑賞して、涙を禁じえない人々の気持ちが、せめて亡くなった人々の供養になってくれればと思いました。