荘村清志最新ベスト「愛のロマンス」
なんとか佳織のように浮ついたギターリストがもてはやされる中での、最新アルバムです。ビートルズの曲がおまけで入ってます。始めっから終わりまでこのアルバムを聴くと、いかにビートルズが才能不足かわかります。
鬼火【字幕版】 [VHS]
「本当に重大な哲学の問題は1つしかない。それは自殺である。人生が生きるに値するか否かを判断すること、これこそ哲学の根本問題に答えることである。」
フランスの哲学家アルペール・カミュが著書「シーシュポスの神話」の冒頭で述べたこの命題を反芻せざるを得ない。
アルコール依存症で療養生活を送る主人公アランは何とか現実生活へ復帰しようとするのだが、かつての友人たちは皆、小市民へと成り下がっていた。社会と自身にたえられなくなったアランはスコット・フィッツジェラルドを読み終えピストルを手に。
ルイ・マルの代表作の一つであり、エリック・サティの音楽とモノクロームの映像が、モーリス・ロネの好演と相まって、主人公アラン・ルロワの人生最後の時間を陰影深く映し出す。
鬼火 [DVD]
映画作品としての出来不出来を超えたところで私には思い入れのある作品です。
高校生の時、今は無き北浜の三越劇場で初めて観て衝撃を受けました。
徹底して静か(ストイックなサティの旋律がぴったり)な映画であるにも関わらず、主人公の孤独感・虚無感があまりにリアルに響きすぎたから。
うまく言えませんが、これを観たことによって逆に「生きていける」と思いました。
自分にとっての鎮静剤のような映画です。
鬼灯の冷徹(1) (モーニング KC)
1〜4巻まで読んでます。
正直1巻だけ読んだ感想は「とっつきにくい」「評価されているところが分からない」
というのもこの漫画の世界観に1巻だけじゃ浸れないんですよね。
しかしながら2巻3巻と購読を続ける旅に鬼灯様を取り巻く地獄の全容が見えてきて
そこから見えてくる作者の、地獄を通した現代への風刺が尋常ではなく。
いつの間にか「今回作者は何にいちゃもんつけてくるんだろうか」と期待しながら読み進めてしまいます。
最初は聖おにいさん系統かなと思って読んでましたけど
地獄を舞台・題材にしつつ、「勝手に改蔵」や「絶望先生」、の系統の漫画に近いと感じました。
一方で地獄をはじめとしてやおとぎ話や八百万神などの題材を斬新な視点で突っ込み切り込む様がお見事です。
この分野に対して作者が深く関心を持って書いてるんだな、と感心します。
また、次々にキャラや設定が出てくるのにそのキャラ達があまり使い捨てにされず何巻も後に登場してきたりして
作者のこの漫画のキャラへの愛が感じられて良いです。
という事で楽しい漫画に出会えた喜びも含めて★5の評価です。
ハマる人はハマる、中毒性のある漫画だと思います。
J・A・シーザー 伝奇音楽集 鬼火 天井棧敷音楽作品集VOL.2
これまで表に出てこなかった音源はもちろん、シーザーや森崎偏陸氏のインタビューなども含めて凄まじい情報量です。これ程までの名作が30年間も埋もれていたなんてと愕然とするしかありません。
馴染みの曲が70年代後期のシーザーの編曲によって装飾されてるのは極めて興味深いですし、万有引力期の打ち込み音源でしか聴くことの出来なかった曲、それまで名前しか知らなかった曲、名前すら知らなかった曲など名曲が目白押しです。
シーザー歌唱の曲に関してはともかく良い曲だくらいしか言えないのですが、「子供遊戯七夜の祝」等の日本的な情念とロックが融合したスタイル、ペルシア・アラブ的なイメージから出来た「シルクロード」、シーザーがユーゴスラビアで出会った女性と同棲してたところを劇団に呼び戻されたエピソードから作詞作曲された「巴里寒身」など実に多彩な曲が収録されています。
どの曲を聴いても驚くのがその音楽的センスです。まったく古臭さを感じさせません。
そして今回注目度が高いと思われるのがDISC1に収録された「身毒丸」の原形、「せっきゃうしんとくまる」ですがまさしく原形です。
約25分ほどの作品ですが音楽的に見れば基本骨子はほぼ変わっていません。
「身毒丸」で感じた鬼気迫る迫力とは違い、独特の不気味さ、生々しさを感じることの出来る作品です。
次にDISC2に収録されている「草迷宮」ですが、「せっきゃうしんとくまる」とこの作品を組み合わせて拡大構成したのが舞台、「身毒丸」らしいです。ですがそれは物語構造的な話で音楽的には完全に別の作品です。約35分ほどの作品ですが「せっきゃうしんとくまる」と比べても台詞が多く、どちらかというと単独の音楽作品というよりは完璧に音楽劇の領域です。
その完成度の高さは音だけ聞く限りでは「身毒丸」に匹敵するレベルだと言えるでしょう。
「せっきゃうしんとくまる」と比べると対照的に幻想的な世界観です。
ただどちらの作品にも言えるのですが音質があまり良くないうえに上演台本発見ならずという事でブックレットに情報未掲載なので「身毒丸」や映画「草迷宮」などを知ってないと台詞、歌詞などわかりにくい部分も多いです。
同じくDISC2の組曲「怪人フー・マンチュー」ですが、コーラス主体のロックオペラ的な作品で、寺山的な怪しく胡散臭いイメージが炸裂した名作です。これは台詞が入っていても曲の中の一部のような構成で純粋に組曲形式の作品ですね。一部シーザーも歌っています。音質はそれほど良くありませんが歌詞は掲載されてます。
99年の万有引力の公演を見たことがある、またはビデオを持っている人はその時に使われた曲の約半分はバンド編成だったのが打ち込みに変わっただけでこの組曲の物とまったく同じだと気付くでしょう。
更にDISC3に収録された一時間を越える大作「十字架の蜃気楼」なんですがこれはちょっと凄いです。
島原の乱を題材にして、ナレーションや台詞も入り混じったシアトリカルロックというかロックオペラというか後のシンフォニックメタルに通じるような、79年の作品とは信じ難いかなり先進的な音楽センスを感じさせられる作品です。
馬渕晴子さんの脚本の影響だと思われますが、今までの寺山的世界観の基で作られた曲とは音楽的ニュアンスがだいぶ違います。
脚本や演出、構成によって出す音を変えてくる劇伴音楽家としてのシーザーの本領発揮ともいえる貴重な作品でしょう。収録された作品の中では録音も比較的良く、歌詞も掲載されています。
ナレーションや一部の台詞等は未記載ですが十分聞き取れる範囲内です。
また珍しい所では70年代後半以降のシーザー音楽には欠かせないメンバーであるチューバ奏者の石井弘二さんが何故かメインボーカルを採っているそうです。
上記に書いた一連の組曲系の作品は天井桟敷から根本豊さんや若松武さん、新高恵子さんなどの代表的な役者が参加していますが、その個性あふれる演技も作品に大きな彩りを与えています。
次はDISC4の75年のリサイタルで、これは極一部の抜粋になっているのですが特筆すべきなのが「人力飛行機のための演説草案」でしょう。
73年のリサイタルや過去の市外劇では昭和精吾さんが朗読していた詩ですが、今回は寺山修司氏本人の朗読です。
最初の挨拶から朗読後の拍手までが収録されているのですが、背後で不穏に鳴る音のなかで朗読される詩が妙な迫力を醸し出しています。
最後にDISC5の81年「蘭妖子コンサート」についてですが、これはもう本当に素晴らしいです。
もしかしたら今回の5枚組みCDの中でもベストな一枚かもしれません。
静かで情念的な曲、コミカルな曲、激しいロック的な曲、「惜春鳥」に代表されるジンタ系の曲など全てが素晴らしい。
絶頂期のシーザーによるバンド編成の編曲と蘭妖子さんの歌が組み合わさったこのCDはまさに奇跡的な一枚と言えるでしょう。音質も古いライブ音源としては良好です。
珍しい曲としては寺山ファンには強烈なエピソードがいくつか知られる寺山修司氏の母親、寺山はつさんが作詞でカルメン・マキの「時には母のない子のように」を作曲した田中未知さん作曲の「おど」、シーザーこんな曲書くんだ、と意外さを感じさせるジャズ調の曲「サムタイム・サラジェーン」等があります。
総評として言えるのは何が何でも買うしかないという事。
シーザー、寺山ファン以外にも、ハードロック、プログレ、ロックオペラ、シアトリカル、シンフォニック、日本的なロックなど、これらの単語に興味がある人は買いです。