愛媛FC2010年忘年会～乾坤一擲3/4 乾坤一擲モバイル

山本五十六の乾坤一擲

私が初めて鳥居民の本を読んだのは、「毛沢東五つの戦争」である。限られた資料と情報、それを分析するにあたって「書かれなかった真実」を読み込むことで歴史の一局面がまざまざと見えてくることに驚いた記憶がある。それから、私は、鳥居民の読者になった。
山本五十六は、毀誉褒貶の激しい海軍軍人である。熱狂的ファンがいる一方、世紀の愚将として批判する者も多い。大東亜(太平洋)戦争が始まる時期の陸軍や海軍の意思が分かりにくいのは、「書かれた文章」以外の「以心伝心」レベルの意思伝達、意図的な反語的表現、戦略と意図を別にした陸軍海軍それぞれのの国内政治向け戦術的表現の真意が、角度によってヤヌスの双面にも見えるからである。
しかし、鳥居民はいつものようにその時代を生きた人々の言葉と行動と思惑の森に分け入って、しばし佇み、落ち葉の中に埋もれていた真意であったものを取り上げて見せる。或いは樹影に寄り添う「忘れられた思い」を静かに引きはがし、白い光の下にさらして見せる。
「奈落の底に落ち込もうとする日本を引き戻そうと試みた人物、たった一人の人物であったにもかかわらず誰もそれを知らない」そして山本五十六の「戦後を生き延びた協力者たちは(天皇と宮中を説得することに失敗した)秘密を守り通した」事実。（これは、天皇と宮中を『戦犯』指定から守ろうとした結果であろう。もちろん、昭和28年以降は、理論的には真実を語ることができたはずであるが、そのようにはいかなかったのであろう）
日米戦争回避のために、昭和16年12月までの数ヶ月間、山本五十六が行った乾坤一擲の賭を、鳥居民以外の誰が読み解くことができようか。