坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)
ある朝のことだった。通勤電車の中で中年のサラリーマン風の人が熱心に古びたハードカバーの本を読んでいた。カバーもせずに読んでおり、何を読んでいるのかなと覗き込んでしまった。それがこの本であった。司馬遼太郎の著作で評価の高いことも知っていたが、かなりの長編であるし、最近は歴史小説もあまり読んでいないこともあって、正直どうかなと思っていたがどうしたわけか読み始めてしまっていた。
新しい時代「明治」に生きる、好古、真之、子規ら松山出身の彼らの成長を読み進めるうちにいつの間にか引き込まれてしまった。新しい日本を作っていこう、国を良くしていこう、そのために自分自身で何を成し遂げようか、そういった驚くほど前向きで壮大な志しをそれぞれが持ち自分の道を進む。現代ではなんとなく抱き難い、そういった真っ直ぐな目標や夢を持ち、そのための努力をし、前に進んでいく。そんな姿に、「歴史小説」であるにもかかわらず、「オレもがんばろう!」という気にさせられてしまう。
この兄弟が特別な才能をもった特別な人間なのか?決してそうではなさそうである。著者のあとがきにもあるように、”かれらがいなければいないで、この時代の他の平均的時代人がその席をうずめていたにちがいない。”
長いこと時間をかけて全8巻を読み終えて、ようやく著者のあとがきを読んだとき、「坂の上の雲」という最高に素敵な題名をつけた司馬遼太郎にありがとうを言いたい気持ちになった。
Jブンガク マンガで読む 英語で味わう 日本の名作12編
マンガと英語で近代文学を覗いてみる本。
明治から昭和初期の12作品が紹介されています。各作品には18ページずつ割かれていて、その18ページが更にいくつかの小部屋に分かれているので、どこからでも読めます。まるであらかじめつまみ食いされる事を想定しているかのよう。気軽に読める本ですね。
マンガと日本語と英語で粗筋が紹介された後、『キャンベル先生のつぶやき』という部屋では原文と英訳文が示されます。日本文学の専門家であるキャンベル先生が、英訳に際して感じたことなども書かれていて、敷居の低い本書の端倪すべからざる一面が垣間見えます。
文学の紹介本としてはかなり異色の一冊かもしれませんが、読み易いです。
NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 第1部 DVD BOX
BS-hi放送で5話とも観ました。(原作ではなく台本を是として)それをどれだけ描けているかで言ったら、おそらく抜群の出来でしょう。音楽も久石&サラのコラボはNHK史上で最高レベルです。しかし私は秋山兄弟を観ていると結局は戦争に頑張ったヒトなんだなと哀しくなってしまう。香川演じる正岡子規と菅野演じる妹が見ごたえ十分。このドラマ唯一の欠点は小澤演じる夏目漱石。漱石ファンとしてこのキャスティングは頷けない。合ってない。なお渡辺謙のオープニングは、それだけで観るものを虜にさせる力がある。
病牀六尺 (岩波文庫)
この本に出会ったのは、闘病生活8年後であった。。かつて、寝たきりの時があったので
病名は異なるとはいえ、子規の苦しみは身をもって想像できる。
私は最近になってようやくこのレヴューを書く気になった。
病気とはいえ、解説にあるように、子規の好奇心には驚かされるものがある。
ただ、この随筆が書かれた時代は、時代がめまぐるしい勢いで変っていくときで、
希望があった時代だと思う。2010年の今の日本でこのような時代に、この本を
読んでみるのも日本の栄枯盛衰を見るようで、興味深い。子規がこの世を去って
100年後の私の病床のまわりには、CDプレイヤーとCDと文庫本が置かれていた。
病気の人もこの本を読んで、子規の生に対する貪欲さを感じてほしい。